煉獄の理

明治十五年、冬。
警視庁の藤田五郎——かつて新選組三番隊組長・斎藤一として幕末の京都を血で染めた男——のもとに、奇妙な事件の報が届く。
本郷の廃寺・蓮華寺で、元士族の老人・北村勘兵衛が死亡した。外傷は首筋に針のような小さな穴一つ。争った形跡はなく、死顔は仏のように穏やか。まるで自ら死を受け入れたかのような最期だった。
北村は維新後、私塾を開いて若者たちに算術を教えていた。その教え子の中には、大蔵省や工部省で出世を遂げた者が十名以上。藤田は北村が残した数式を解読し、驚愕する。
それは「消えた五万石」の告発状だった。
廃藩置県の折、加賀藩の金庫から消え、政府の帳簿にも記載されなかった莫大な浮き金。北村はその金が、現在の政府重鎮たちの資産へと化けていることを、数式によって完璧に証明していた。
容疑…続きを読む