第2話 最強がさらに最強進化
兵士からガラクタ同然の剣を手渡された。
剣なんて振ったことはない。
それでも、やるしかない。
森を進むと、ドラゴンが降りてきた。
「交渉したい!」
「我が子である卵を奪っておいて、その言い草は許せん」
言葉は通じる。
怒りの理由も理解できる。
「卵は俺が取り返す。それまで待ってくれないか」
「お前なら、地べたを這う虫と交渉するのか? 卵がここにあり、謝るなら苦しませずに食ってやる」
……駄目だ。
仲間たちが震えているのがわかる。
歯の鳴る音まで聞こえる。
それでも、逃げ出す者はいない。
「殺すなら俺だけにしてくれ」
「人間は皆殺しだ。そう決めた。一度決めたらやり遂げるのがドラゴン」
「頼むよ! 俺が盗んだわけじゃないけど、謝るから! ごめんなさい!」
俺は土下座した。
「ふん、無駄だ」
「パイソン、だめ!」
「そう、一緒の約束」
「どこまでも一緒」
「みんな! せめて一太刀!」
仕方ない。
俺たちは剣をドラゴンの脚に叩き込んだ。
剣は弾かれ、手が痺れる。
それでも、力の続く限り振り続けた。
「ウロコ一枚でも……ウロコの隙間に……くっ、入らない!」
全力で隙間を狙うが、剣は通らない。
それでも諦めない。
「はぁ……はぁ……」
「この! この! このトカゲ野郎!」
「いい加減に……キズのひとつも……付いたら……どう……はぁ……」
「くっ、諦めない! まだまだぁ!」
やがて、みんなの動きが止まった。
腕がもう上がらない。
「何かしたか? 虫どもよ」
彼女たちがよろよろと近づき、順番に俺にキスをした。
「生まれ変わっても一緒」
「そうね、約束」
「破ったら、殺す」
「破ったら、呪ってやる。さぁ、齧りついても倒す」
そうだ。
歯が立たないとわかっていても、俺たちはドラゴンに噛みついた。
「交渉したということで、苦しませずに殺してやる。死ね!! ガァァァガオーン!」
「がふっ……!」
血が盛大に溢れた。
痛みと苦しさが全身を襲う。
彼女たちは倒れている。
せめて手を繋ぎたい。
歩こうとして、ゆっくりと倒れ始めた。
涙がこぼれる。
世界がスローモーションになり、心臓が止まったのを理解した。
全員が同じ状態だろう。
死んでたまるか……!
どうすればいい?
【生成AI】に尋ねても無駄だ。
「どうしたら生き返れる?」なんて質問に答えられるはずがない。
地面が近づく。
倒れきったら終わりだ。
「【生成AI】、“物理攻撃を止めろ”を“細胞の思念を受け取って、細胞の動きを念動で助けろ”に変更。耐物理攻撃念動シャツ.pyを細胞念動シャツ.pyに修正しろ」
―――――細胞念動シャツ.py――――――――――
「念動1」から「念動100000」に
“細胞の思念を受け取って、細胞の動きを念動で助けろ”を書き込む
for port in range(io_port_search("念動1"), io_port_search("念動100000")):
io_port_write_command_str(port, "細胞の思念を受け取って、細胞の動きを念動で助けろ")
――――――――――――――――――――――――
「【ハック】細胞念動シャツ.py」
ボットを書き換えた瞬間、スローモーションが解除され、意識が鮮明になった。
手をつき、急いで起き上がる。
体が軽い。
絶好調だ。
胸に手を当てると、鼓動がない。
心臓が破裂したらしい。
血管もあちこち切れている。
だが、細胞の思念に同調した念動が傷を塞ぎ、心臓の代わりに血液を送っている。
アンデッドというより、魔導サイボーグだな。
細胞ひとつひとつに思念があるなんて驚きだ。
「なぜ生きている? 即死の竜言語魔法だぞ」
彼女たちも蘇生させたい。
速攻で片をつける。
予備の耐物理攻撃念動シャツを二枚取り出す。
「【生成AI】、“物理攻撃を止めろ”を“液体を止めろ”に変更。耐物理攻撃念動シャツ.pyを耐液体念動シャツ.pyに修正しろ」
―――――耐液体念動シャツ.py―――――――――
「念動1」から「念動100000」に“液体を止めろ”を書き込む
for port in range(io_port_search("念動1"), io_port_search("念動100000")):
io_port_write_command_str(port, "液体を止めろ")
――――――――――――――――――――――――
「【ハック】耐液体念動シャツ.py」
さらに書き換える。
「【生成AI】、“物理攻撃を止めろ”を“右拳の先を破壊”に変更。耐物理攻撃念動シャツ.pyを1点集中念動シャツ.pyに修正しろ」
―――――1点集中念動シャツ.py―――――――――
「念動1」から「念動100000」に“右拳の先を破壊”を書き込む
for port in range(io_port_search("念動1"), io_port_search("念動100000")):
io_port_write_command_str(port, "右拳の先を破壊")
――――――――――――――――――――――――
「【ハック】1点集中念動シャツ.py」
書き換え完了。
二枚を重ね着し、口を開けているドラゴンへ跳び込む。
細胞を補助する念動のおかげで、跳躍スキル並みの動きができる。
胃の中に落ちた。
耐液体念動シャツが胃液を寄せつけない。
「1点集中、念動パンチ! 十万倍パワーだ!」
ドラゴンの胃に穴が開いた。
胃酸が肉を溶かし、血が溢れる。
「おっ!」
凄まじい勢いで押し出され、俺は血と胃液とともに吐き出された。
生き物は胃の許容量を超えると吐く。
止められない生理現象だ。
彼女たちのシャツも細胞念動シャツに改造する。
彼女たちがピクピクと動いた。
「頼む、生き返ってくれ!」
『これは、驚いた!』
転生させた神の声だ。
「彼女たちを生き返らせてくれ!」
『心配するな。死んではおらん。後遺症もない。……ところで、そなた神になったな』
「へっ?!」
『考えればわかる。十万×三の魔道具を同時起動しておるのだ。消費魔力は膨大じゃ』
「俺は元貴族だから魔力量は多いけど……」
『十秒が限界のはずじゃ』
確かにそうだ。
死んで生き返った時点で神になったのか、神になったから生き返ったのか……どうでもいい。
「じゃあ彼女たちも神に?」
『いや、候補に過ぎん。彼女らの魔力はお前が供給しておる。魔力とは神の精神体。想いに応える存在は神だけじゃ。お前は魔力がほぼ無限になった』
「魔力ってそういうエネルギーなのか」
『彼女たちを大事にするなら気をつけよ。死の影が忍び寄っておる』
『余計な忠告をするな。協定違反だ』
知らない声が割り込んだ。
「どちら様?」
『我はこの星を身体とする星神』
「お前が四人を殺そうとしてるのか? 俺もか?」
『ふむ、教えてやろう。環境汚染と採掘が痒くてたまらん。ゆえに文明の発展を阻止し、偉人を殺す』
理屈は無茶苦茶だが、妙に納得できる。
俺たちは星にとってのダニや菌みたいなものかもしれない。
『わしら神は文明の発展と進化を望む』
『我は気に食わんが、神々と対立しておる』
なら、両立させればいい。
「提案がある。文明と進化を加速させ、環境汚染と採掘をやめさせる。これでどうだ」
『異存はない』
『我もない。彼女らを殺す意思は持たぬ』
「では約束だ。効果が出るまで時間はかかるが、いいな?」
『神に年月は関係ない』
『我もだ。ただし改善が見られなければ協定は破棄する』
神々が去った。
俺はスクリプトからもらった救難信号魔道具を使った。
光の玉が空に浮かび、十分ほどで冒険者が到着する。
さて……とんでもない仕事を引き受けてしまった。
納期に余裕があるのはいいが、難題だ。
それに、魔道具ギルドマスターのジャバと賄賂王もなんとかしないと安心できない。
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