魔法制御ハッカー~魔法陣をハックしたら、王国の階級がバグって、クズ貴族だけ底辺に落ちた件~

喰寝丸太

第1話 王命

「魔道具王パイソンと助手の四人、そなたらにドラゴン討伐を申し付ける」


 俺は日本から異世界に転生したパイソン・ジェネレーティブ、十八歳。

 持っているスキルは二つ……【生成AI】と【ハック】。

 どちらもユニークスキルで、準チートと言っていい。


 元貴族の庶子だったが、家を追われて浮浪児になり、そこから魔道具職人として成り上がった。

 ……いや、成り上がりすぎたのかもしれない。


 玉座に座るこの国の王。

 二つ名は『賄賂王』。

 関わらないようにしていたが、それが裏目に出たらしい。


 考えてみてくれ。

 前世の俺はへっぽこハッカーもどきで、殺人なんてできるわけがない。

 捕まるのが嫌で、やっていたのはグレーゾーンの仕事ばかりだ。

 ゲームボット、掲示板書き込みボット、自動応答ボット、ホームページの内容を抜き出すスクレイピング……そんな程度。


 犯罪者メンタルなんて持ち合わせていない。

 今も元貴族の魔道具職人で、犯罪や殺しとは無縁だ。


 だが、断ればどうなるか。


「返答は? 拒否したら王を僭称した罪で処刑だな」


 その二つ名は勝手に付けられたもので、俺が名乗ったわけじゃない。

 だが、そんな言い訳が通じる相手ではない。


「ふはは、その四人の娘を差し出せば許してやらんこともない。まあ、二度と魔道具を作れぬよう魔法契約もしてもらうがな。わはははっ」


 言ったのは魔道具ギルドマスター。

 くそ、やっぱりお前の仕業か。


 理由はいくつもある。

 まず、俺の助手を務める浮浪児時代からの仲間の四人。


 赤毛で肉感的なベイシー。

 紫がかった黒髪ロングのスレンダー美女アセラ。

 緑髪でタレ目の色気あるコーベル。

 金髪で吊り目気味の悪役令嬢系美人フォルトゥナ。


 彼女たちが美人なのは、俺が開発した美容・整形魔道具のおかげだ。

 急激に変化させるのではなく、運動や食事のように“徐々に理想へ近づける”タイプ。

 副作用が怖いから、そういう仕様にした。


 男たちが目をつけるのは仕方ないが、ギルマスは論外だ。

 俺の思想『魔道具は安く便利に、誰でも使えるように』が気に食わないのだろう。


 俺を次期ギルドマスターに推す職人もいる。

 だからギルマスは妨害してきた。

 ギルドに入らなくても困らなかったから無視していたが、それも裏目に出た。


 貴族たちの大半が賛同し、討伐は決定した。


「王命、承ります」


「そうか。ジャバ、どうする?」


「パイソンが死んで、娘が何人か生き残ったら……ぐふふ」


「好きにせい。付け届けは忘れるな」


「もちろんですとも」


 茶番だ。


 廊下を歩いていると、隻眼の戦士風の男が声をかけてきた。


「わしは冒険者ギルドマスターのスクリプトだ」


「……何か用?」


 刺々しい言い方になったのは許してほしい。

 さっきの件で心が荒れている。


「手短に言う。ジャバの野郎をぎゃふんと言わせたい。だが、ドラゴン討伐隊は編成できん。AランクもSランクも不在でな」


「なるほど。あいつの計画通りってわけか」


「これを渡しておく」


手渡されたのは魔道具。


「何これ?」


「救難信号だ。撤退時に使え。煙幕を張って担いで逃げるだけならBランクでも可能だ」


「それで助かっても……」


「時間を稼げれば、SやAランクが戻ってくる」


 いや、再戦は無理だ。

 王もギルマスも許すはずがない。


「ありがとう。一応もらっておく」


「雨風除け付きの火点け魔道具、助かってるぞ。お前さんには死んでほしくない」


 俺の初ヒット商品だ。

 ファンがいるのは嬉しい。


「俺も死にたくはない」


「じゃな。健闘を祈る」


 拳を軽く合わせて別れた。

 良い人だが、政治的には弱いのだろう。


「くそっ!」


 帰り道、家の石壁を殴った。

 拳から血が垂れる。


「みんな、済まない……」


「何言ってるの。子供の頃から一緒でしょ」


「あなたがいなかったら、わたし浮浪児のまま死んでたよ。やるしかない」


「そうそう。死ぬときは一緒」


「今までいい思いしたし、未練はないわ」


「ねぇ、戦いに……」「それを言ったら死亡フラグ」


 ベイシーの唇を押さえて止めた。


「死亡フラグ?」


 フォルトゥナが首をかしげる。

 前世の概念だから仕方ない。


「ゲン担ぎだよ。情けないけどな」


 攻撃用魔道具を作ろうとしたが、もぐりの魔石屋の魔石はすべて売り切れ。

 最近の大量注文で材料を使い切ったのを、ジャバは知っていたらしい。


 後手後手だ。

 人殺しに使える武器を作りたくなくて、家電系魔道具ばかり作ってきたのが仇になった。


 家に戻ると、護送馬車付きの兵士が待っていた。

 そこまでやるか。


 俺たちはそのままドラゴンの棲む山へ連れて行かれた。


 ふもとに近づくと、ホワイトドラゴンが白いブレスを吐きながら飛んでいるのが見えた。

 地表に降り、森のモンスターを食っている。


 でかい!

 どう勝てというんだ?!


 魔道具職人としては一流だが、攻撃用魔道具なしでは無理ゲーだ。

 助手の四人も戦闘スキルなし。

 防具は耐物理攻撃念動シャツだけ。

 斬撃や矢なら防げるが、ドラゴン相手では心許ない。


 俺は魔道具の製作過程を思い出す。


「【生成AI】、io_port_write_command_str(ポートアドレス,)関数で、『念動1』から『念動100000』の魔法陣に繋がっているポートにループで"物理攻撃を止めろ"を書き込め。この耐物理攻撃念動シャツ.pyというPythonプログラムを作れ。『念動1』から『念動100000』のポート番号は連番」


―――――耐物理攻撃念動シャツ.py―――――――――

# 「念動1」から「念動100000」 に"物理攻撃を止めろ"を書き込む

for port in range(io_port_search("念動1"), io_port_search("念動100000")): # 100000回ループ

    io_port_write_command_str(port, "物理攻撃を止めろ")

――――――――――――――――――――――――


 こんな感じに生成AIがプログラムを作ってくれる。

 へっぽこプログラマーにとってはありがたい。

 もちろん、薬草だろうが、昔の事件だろうが、疑問には答えてくれる。

 しかし、間違いもそれなりにある。

 全知全能には程遠い。


「【ハック】耐物理攻撃念動シャツ.py」


 これでハック用のボットを魔石を材料に創り出して、ハックする。

 ボットは四角いチップ。


 作ったボットから、出力ポートに繋がってる10万本の魔力線。

 それが10万の念動の魔法陣に接続され、シャツに散りばめてある。


 この世界は原則は魔法、スキル、魔道具は一人でひとつしか使えない。

 なぜかというと頭が処理できないからだ。

 訓練しても3つが限界。

 右手と左手で違う動作は難しいのは理解できるだろ。


 魔法陣同士の連結も普通なら無理。

 魔法陣は1つにつき、1機能。

 俺のハックスキルはこの常識を覆す。

 なので、家電と同じ機能の魔道具も作れる。


 馬車が止まった。

 いよいよ戦いだ。


 みんな無言。

 死ぬしかないのだろう。


 転生して十八年。

 短い人生だった。

 前世は八十近くまで生きたから未練はない。


 だが……彼女達四人だけは、なんとしても助けたい。

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