第3話 問題山積み

「魔道具王さんとやら、ドラゴンに止めを刺さなくていいのか?」


 救難信号で駆けつけた冒険者パーティのリーダーが声をかけてきた。


「えっ、まだ生きてたのかよ」


「血を吐いたくらいじゃ死なないさ。ドラゴンスレイヤーの称号は、俺たちにはちと重い」


「さすがドラゴンだな。おい、死んだふりはやめろ!」


「くっ、交渉しようではないか……」


 さっきまで“虫とは交渉しない”と言っていたくせに。

 認められた、ということか。いや、深手なのは間違いない。


 突然、俺の体が吹っ飛び、地面を転がった。


「いってぇな……何だ今の? はっ、ドラゴンの首が刎ねられてる。誰だ?」


「Bランクの俺でも何も見えなかったぜ。ありゃあ、たぶんSSSランク級の殺し屋だな」


「くっ……わらわはここまでか。最後に名前を聞かせてくれ」


 首だけになっても喋るとは、さすがドラゴンだ。


「パイソンだ」


「わらわはパール。また会おうぞ、友よ……グルル……」


 『また会おう』って、来世でか。

 俺は神らしいから、転生したドラゴンに会えるかもしれない。

 さっきの神と星神の会話も、どうやら聞かれていたようだ。


「またな」


 俺は準チートだが、化け物クラスではないらしい。

 証拠に、重ね着していたシャツ三枚がすべて斬られていた。

 あと一撃入っていたら、確実に死んでいた。


 耐物理攻撃念動シャツのおかげで助かった。

 今回は運が味方しただけだ。


 斬られても、魔法陣の百個ほどが機能停止しただけ。

 群体型の魔道具で本当に良かった。


 殺し屋はジャバの差し金だろう。

 『生き残ったら殺せ』とでも命じられていたに違いない。


 それにしても、星神は偉人を殺していたはずだ。

 殺し屋は除外なのか?

 不公平だ。

 ……いや、殺し屋は文明の発展を阻害する側か。

 混乱を招く存在だしな。


 くそ、つくづく糞な世界だ。


 ベイシーたち四人が目を覚ました。


「死んだよね、これ」


「心臓が動いてないんだけど」


「えっ、アンデッド?」


「でも冷たくはないわね……」


 四人は互いに触り合って体を確かめている。

 フォルトゥナは特に念入りだ。


「すまん。魔道具をハックして生きてる状態だ。心臓が治って復活するまで、シャツは脱がないでくれ」


 この魔導サイボーグ状態から普通に戻らないといけない。

 やることが多すぎる。

 殺し屋もまた来るだろう。

 今回は魔力が切れかけていたから引いたのだろうが、あの一撃を何度も撃てるとは思いたくない。


 四人から「お風呂入りたーい」という怨嗟の声が上がった。

 俺だって入りたい。


「【生成AI】、破裂した心臓を治癒させる方法は?」


――――――――――――――――――――――――

破裂した心臓を治癒する手段は極めて限られている。

現在確認されている方法は 外科手術 のみであり、回復系のスキルや魔法では完全な修復は不可能とされている。

かつてはポーションによる治療法の開発も試みられたが、研究はすでに行き詰まり、実用化には至っていない。

そのため、実際に治療を行うには、熟練した外科医と高位の治癒師の協力が不可欠である。

彼らの技術と魔力を組み合わせることで、わずかに生存の可能性が開かれるのだ。

――腕のいい外科医と治癒師をピックアップしますか?

――――――――――――――――――――――――


 そう、回復ポーションなんて存在しない。

 中世レベルの外科医に心臓手術なんてさせたくない。

 このままではシャツを脱げない。


「【生成AI】、この世界の技術レベルで心臓手術の成功率を高めるには?」


――――――――――――――――――――――――

この世界において、心臓手術の成功率を高めるためには、従来の外科的手法だけでは限界がある。

そこで用いられるのが、肉体変形スキルを宿した魔道具と、透視スキルを宿した魔道具である。

両者を同時に制御することで、外科医は患者の体を開腹することなく、体内に直接手を加えることが可能となる。


肉体変形スキルの魔道具は、組織を柔軟に変形させ、外科医が必要な部位へ安全に到達できるよう補助する。

一方、透視スキルの魔道具は、体内の状態を視覚化し、精密な操作を可能にする。

これらを併用することで、従来の手術に比べて大幅にリスクを軽減できる。


ただし、この方法を成功させるためには、治癒師による回復魔法の継続的な支援が不可欠である。

手術中に絶えず回復手段を掛け続けることで、患者の生命力を維持し、術後の生存率を飛躍的に高めることができる。

成功率29%。

――――――――――――――――――――――――


 成功率29%。低すぎる。


「【生成AI】、さらに成功率を高める下準備は?」


――――――――――――――――――――――――


心臓手術の成功率をさらに高めるためには、事前の徹底した準備が欠かせない。まず、透視スキルを宿した魔道具を用いて、外科医に心臓の形状と拍動の動きを詳細に観察させる。これにより、損傷の程度や肉片の位置関係を正確に把握することが可能となる。

破裂によってバラバラになった肉片を元の位置へ戻す作業は、極めて難解なパズルを解くに等しい。そのため、事前に破片の三次元データを作成し、仮想環境で組み合わせを試行錯誤する工程が必須となる。

これにより、実際の手術時に最適な組み合わせを迅速に導き出せる。

ただし、この工程を成功させるには、根気と集中力を兼ね備え、複雑なパズルに強い天才的な人材が必要とされる。

彼らの知恵と技術があって初めて、心臓の再構築は現実のものとなり、成功確率は飛躍的に高まるのである。

成功率46%。

――――――――――――――――――――――――


 46%。まだ半分にも届かない。

 物品修復スキルが生きている人間に使えればな……。

 時間巻き戻しなんてチートがあれば、星神に即殺されているだろう。


「私、パズル超得意よ。任せて」


 フォルトゥナがAIの回答を読んだらしい。


「そんな特技があったのか」


「今まで秘密にしてたけど、私の集音スキル……実は念聴スキルなの。物の声も、死んだ人の声も拾っちゃうのよ」


「それ最強じゃないか」


「気味悪がられて奴隷に売られそうになったけどね。隣の部屋で両親と奴隷商の会話を聞いて、逃げ出したの」


 元の位置がわかるなら、フォルトゥナに手術させればいい。

 算段は立ったが、大プロジェクトだ。


「緊急課題は、心臓の修復、殺し屋対策、ドラゴン討伐の後始末……こんなところか?」


「死亡フラグはもう無効よね。結婚しましょ」


「そうね」


「ずるい、私も」


「四人一緒よ」


「待て、重婚は犯罪だ」


「守ってる人なんていないよ。スケベな商人なんか愛人作りまくりだし」


「王族と貴族は合法なんだっけ」


「パイソンって元貴族よね。復帰できないの?」


「スキルがなくて忌み子扱いされて捨てられたんだよな。でも今はスキル持ちで、ドラゴンスレイヤーでしょ?」


「いや、ドラゴンは殺し屋が……ジャバや賄賂王に弱みを見せたくない。とにかく、落ち着くまで待って……むぐっ」


 ベイシーにキスされた。


「へへっ、婚約の証」


 アセラが抱きついてきて──


「……ごちそうさま」


 キスのあと、やたら触ってくる。

 普通、彼氏が彼女にする行為だろう。


「ずるいよ、私も……ぷはぁ……はぁ……」


 コーベルはキスしながら体をこすりつけてくる。

 まるで獣の匂い付けだ。


「最後には福があるのよ……ふぅ……もう少し……うん、堪能した」


 フォルトゥナは舌まで入れてきた。

 このスケベたちめ。


 結婚した暁には、現代の性技を叩き込んでやる。

 ……とはいえ、問題が多すぎる。

 結婚は当分先だな。

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