第9話 マンガの知識と、人材発掘

リフォームしたてのリビングは、最高に快適だった。  

私は三十畳はある広々とした空間の真ん中で、高級ブランド家具にも引けを取らないフカフカのL字ソファに埋もれていた。  

南向きの窓からは魔法で再現した暖かな日差しが差し込み、エアコンが完璧な室温を維持している。  

手元には冷えたカフェオレ。

そして膝の上には、この世界には存在しないはずの漫画。


「……うん、やっぱり異世界転生モノは鉄板だね」


私は『森羅万象』で具現化した漫画のページをめくった。  

主人公がチートスキルを使って無双し、仲間を集めて成り上がっていくストーリー。  

まさに今の私のお手本のような教科書だ。  

そのワンシーンで、主人公が仲間をスカウトする場面があった。

彼は『鑑定』というスキルを使い、相手のステータスや隠された才能を見抜いて、有能な人材を引き抜いていたのだ。


私はページをめくる手を止めた。


「……これだ」


ガバッとソファから起き上がる。  

私もこの主人公みたいに『視る』ことができれば?


「今の強さはどうでもいい。私が知りたいのは『伸びしろ』だ」


必要なのは、私の支援を受け止められるだけの「器」の大きさ。  

いわば、勇者としての素質だ。


「よし、作ろう。鑑定システム」


私は目を閉じ、イメージを構築する。  

複雑な数値やステータス画面はいらない。パッと見て直感的に分かるのがいい。  

そうだな……ゲームみたいにランク付けするのが分かりやすいか。


ランクは【S・A・B・C・D】の五段階。  

基準はこうだ。


D~C:一般的。  

B:優秀。鍛えればそこそこ強くなる。  

A:超一流。騎士団長とかになれるレベル。  

S:歴史に名を残す逸材。私の「代行者」候補。


狙うはもちろん、最高のSランクだ。  

私は脳内の回路を組み替え、視覚情報にフィルターをかける魔法を構成した。


「……『森羅万象』、素質鑑定・起動」


カッ、と目が熱くなる感覚。  

成功だ。私の網膜には今、新しいシステムが実装された。  

これを使えば、人を見るだけでその頭上にランクが表示されるはずだ。


「早速、テストしてみよう」


私はソファに深く座り直し、再び意識を飛ばした。  

ターゲットは、城塞都市の上空で待機させている小鳥の使い魔、ピーちゃんだ。


――リンク、接続。


視界が一瞬で切り替わる。  

眼下には、相変わらず活気に満ちたファンタジーの街並みが広がっていた。  

市場の大通りは今日もたくさんの人で賑わっている。  

私はズーム機能を使って、道行く人々を凝視してみた。


すると。


「……お、出た」


歩いている人々の頭上に、半透明のアルファベットが浮かび上がった。    

屋台で果物を売っているおばちゃんは【D】。  

剣を背負って歩いている若い男は【C】。  

巡回中の鎧を着た兵士は【B】。


面白いように見える。  

私は視線を次々と動かした。


【D】【C】【C】【B】【D】……。


「うーん、やっぱりそう簡単にはいないか」


当たり前だけど、大半はDかCだ。  

時折Bが見つかる程度で、Aすら見当たらない。  

兵士や冒険者風の人でも、B止まりがほとんどだ。  

つまり、Bランクあればこの世界では十分に「戦える人」なのだろう。


でも、私が探しているのは、強い敵と渡り合える逸材だ。  

妥協はできない。  

一生を左右するパートナー選びなのだから、最高の人材を見つけないと。


「……あと、もう一つ条件をつけよう」


私は群衆を見下ろしながら考えた。  

才能だけじゃなくて、やっぱり相性も大事だ。  

いきなりむさ苦しいおっさんや、気難しい男の人をあのお洒落なリフォーム済みハウスに招くのは、ちょっと抵抗がある。  

私のプライベート空間に入れるのだ。安心感は必須だ。


「うん、女の子がいい。同性がいい」


女の子なら、一緒にあのお風呂に入ってもいいし、リビングでパジャマパーティーだってできるかもしれない。  

話しやすさも段違いだ。  

よし、ターゲットは絞られた。  

【Sランク】の【女性】。  

これが今回の狙いだ。


「さーて、どこかにいないかな~、私のSランクちゃん」


気分は完全に、ソシャゲのリセマラだ。  

私はワクワクしながら、ピーちゃんの翼を羽ばたかせた。  

上空からの品定め。  

広大な街の中から、たった一人の運命の相手を見つけ出す。  

そんな宝探しのような高揚感と共に、私は本格的な探索を開始した。

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