第2話

彼はアトリエで絵を描いていた。


アトリエには、完成を待つ作品がたくさん並び、すぐに手の届く状態で置いてあった。

しかし、未完の作品をそのままに、今は彼女の肖像画に取り組んでいる。


彼は爪を噛みながら、じっと彼女を見つめている。


そして、彼女は彼から指示を受けた。


「もうちょっと右を向いてくれ。鼻が見づらい」


実際、今の顔の向きは、彼女の鼻筋を際立たせる角度ではなかった。

彼女は静かに頷き、少し右に顔を傾けた。


彼は立ち上がると、窓のシェードを下ろした。

そしてまた絵に向かう。


彼はパンを噛じっている。

小麦だけで作られた、いつものパン。

デッサンを修整するのにも使っており、常に手元に置いてある。

彼は彼女から目を離さず、それを元の位置に戻す。


彼は手を止め、髪を掻ぎ乱した。

そして、そのまま手を頭の上に乗せ、つぶやいた。


「まだまだ完璧じゃない」


彼はその姿勢のまま、彼女と作品とを交互に見つめている。


モナ・リザはただ微笑み続けた。

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恍惚 haru @koko_r66-haru

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