第51話 ひだまりの沼

 母校が地獄と化す一方で、タカシたちが去った後の**悪徳介護施設「ひだまりの家」**では、さらなる因果応報が渦巻いていた。

​ タカシと佐藤が去り、火の手が上がる混乱の中、生き残っていた悪徳職員の田中は、己の罪を隠滅しようと躍起になっていた。彼は動けなくなった車椅子の老人、蓮見理事長の叔父を「救助」するふりをして、建物の裏手にある、底の見えない深い**「ひだまりの沼」**へと続く非常階段に追い詰めた。

​「じいさん、あんたも連れていけないんだよ。ここで『転落死』してもらうぜ」

​ 田中は冷酷な笑みを浮かべ、老人の背中を力任せに突き飛ばした。

 車椅子ごと、老人は夜の闇へと吸い込まれていく。

​「ドボォォォォォン!!」

​ 水しぶきが上がり、老人は二度と浮いてこなかった。

 田中は満足げに、タカシの真似をして首を傾けた。

「……介護の負担、減らさせていただきましたぁ~~」

​ だが、その言葉が沼の面に触れた瞬間、水面がボコボコと不気味な泡を立て始めた。

 死んだはずの老人の体が、沼のヘドロと混ざり合い、節々の抜けた巨大な**「湿地の妖怪・泥老人」**へと変貌して浮上してきたのだ。

​「……お返しを……差し上げよう……」

​ 妖怪の口からは、ヘドロにまみれた大量のメロンの種が溢れ出している。

「な、なんだよこれ! バケモノだぁぁぁ!」

​ 田中は慌てて逃げ出そうとしたが、ここでタカシから伝染したかのような「呪われたコケ」が発動した。沼の縁に捨てられていた、誰かの遺品の入れ歯。田中はそのカチカチと震える入れ歯を完璧に踏み抜いた。

​「あッ」

​「ズザァァァァァッ!!」

​ 田中の体は、自分の悪意で塗り固められた泥の上を滑走し、そのまま泥老人の待つ沼の中へと、吸い込まれるようにダイブした。

​「……いただきましたぁッ!!」

​ 空中で無意味にキレのあるポーズを決めたが、着水した瞬間に無数の冷たい「手」が田中の足首を掴んだ。それは、これまでこの施設で不当な扱いを受けて死んでいった、多くの利用者たちの怨念だった。

​「……一緒に行こう……地獄のデイサービスへ……」

​ 泥老人の腕が田中の首に巻き付く。田中は鼻と口にヘドロを詰め込まれ、泡を吹きながら、底なしの沼へとゆっくりと引きずり込まれていった。

​ 翌朝、沼のほとりには、田中のものと思われる**「職員証」と、一房の「桜葉餅の葉」**だけが虚しく浮いていた。

​ 一方、そのニュースをワゴン車のラジオで聞いたタカシは、母校の廊下で静かに微笑んだ。

「……おじいちゃんたちも、楽しんでるみたいだね。佐伯くん」

​ タカシの背後では、ゾンビ化した島田理恵が、最後のリボンを口からこぼしながら、ゆっくりと立ち上がっていた。

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