第49話 血の池地獄

 悪徳介護施設「ひだまりの家」の惨劇は、タカシの暴走だけでは終わらなかった。

​ 理事長が舌を切り落とされた狂乱の最中、それまで上司から凄惨なパワハラを受け、低賃金で酷使されていた若手職員の佐藤の糸が、プツリと切れた。

​「……そうだ。切ればいいんだ。全部、枝みたいに」

​ 佐藤は備品倉庫から、手入れの行き届いた伸縮式の高枝切り鋏を掴み出した。その目は、タカシのそれとは違う、完全にハイライトの消えた虚無の色をしていた。

​「剪定せんていの時間、いただきましたぁ……」

​ 佐藤は廊下を走りながら、自分を怒鳴り散らしていた主任の首に、3メートル先から刃を伸ばした。

​「パチンッ!!」

​ 乾いた音と共に、主任の首が不自然な角度で折れ、鮮血が壁に「友情」の二文字を描き出す。佐藤は止まらない。自分を「クズ」と呼んだ上司たち、そして身勝手な要求で彼を精神的に追い詰めた一部の悪質な利用者たちを、次々とその長い刃で「間引いて」いった。

 ​施設内は、タカシの機関銃の音と、佐藤の高枝切り鋏が空を切る音、そして断末魔が混ざり合う地獄絵図と化した。

​ そんな血の海の中、佐藤は一人の入居者の孫娘である絶世の美女を、混乱に乗じて奥の特別室へと連れ込んだ。彼女は恐怖に震えながらも、血まみれで「一徳」の真似をしながら微笑む佐藤の異様な色気に、抗えない魔力を感じていた。

​「……特別サービス、いただきましたぁ」

​ 阿鼻叫喚の叫びが響く壁一枚隔てた向こう側で、佐藤は返り血を浴びたまま、美女と狂ったような情事に耽った。死と生、暴力と快楽が、ねっとりとした空気の中で混ざり合う。

​ その頃、タカシは部屋の外で、事後(?)の佐藤を待っていた。

「……おじさん、いい仕事したね」

​ タカシは、美女を抱いて部屋から出てきた佐藤に、中身の詰まったメロンの箱を一つ投げ渡した。

​「……それ、祝儀です。いただきましたぁ」

​ タカシと、高枝切り鋏を杖のように突く佐藤、そして虚ろな目をした美女。

 三人は、炎上し始めた介護施設を背に、ゆっくりと一台のワゴン車に乗り込んだ。

​「……さぁ、いよいよだ。僕たちの母校へ、凱旋がいせんしよう」

​ 車が走り出した瞬間、タカシは車窓から身を乗り出し、夜空に向かって叫んだ。

「佐伯くーん! メロン持って会いに行くよぉぉぉ~~!!」

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