第43話 下田の怪

 秋田できりたんぽの刑に処されたタカシは、東北の霊気に耐えかねて一気に南下。伊豆の下田へと逃げ延びた。

「幕末の風に吹かれれば、僕の業も少しはマシになるはずだ……」

​ 下田の街を歩いていると、ある建物の壁面に巨大な**『龍馬伝』の福山雅治**の似顔絵が描かれているのが目に入った。その端正な顔立ち、風にたなびく髪。あまりの男前さに、タカシはうっとりと見惚れてしまう。

​「……かっこいい。龍馬、そして福山さん……。シモダ……シモダ……」

​ その時、タカシの脳内で「下田しもだ」という地名が、別の強烈なキャラクターと結びついてしまった。

​「……シモダ、カゲキ。志茂田景樹さん……。あのカラフルな直木賞作家のオーラ、いただきましたぁ~~」

​ タカシが脳内で福山雅治に志茂田景樹のド派手なタイツを重ね合わせ、ねっとりと一徳ポーズを決めた瞬間、街の空気が腐敗臭に包まれた。

​「……アァァ……」「……ニク……」

​ 振り返ると、コンビニの自動ドアを突き破り、生ける屍(ゾンビ)の群れが溢れ出してきたのだ。しかも、そのゾンビたちは皆、志茂田景樹をリスペクトしたかのような、蛍光色の奇抜なファッションに身を包んでいる。

​「うわあああ! ゾンビ! しかも趣味が悪いゾンビが出たぁぁぁ!」

​ タカシは腰を抜かしそうになりながら、近くのセブンイレブンへと逃げ込んだ。しかし、店内にもレジ打ちの制服を着たゾンビが待ち構えている。

​「あ、あああ……っ!」

​ 極限の恐怖。そして連日の災難による精神疲労。タカシの膀胱はついに限界を迎えた。

​「……出ちゃいましたぁ……」

​ 股の間から温かいものが広がり、ズボンに濃いシミができていく。人生最大級の屈辱。しかし、その時だった。

​「あッ」

​ 自分の失禁した液体に、タカシの右足が完璧に乗った。

 本日一番の、自業自得すぎるスライディング。

​「ズザァァァァァッ!!」

 ​タカシの体は、自分の小便でコーティングされた床を高速で滑走。そのまま、コンビニの棚に陳列されていた**「静岡名物・黒はんぺん」**の山に、ダイビング・ヘッドバットの形で突っ込んだ。

​ ボゴォォォォォン!!

​ 崩れ落ちる黒はんぺん。タカシの顔面ははんぺんの灰色の汁でドロドロになり、そこへ追い打ちをかけるように、棚の上の**「わさび漬け」**が目に入った。

​「ぎゃあああ! 目が! 目が志茂田景樹並みにチカチカするぅぅぅ!」

​ あまりの激痛とマヌケな姿に、追いかけてきたカラフルゾンビたちも、「……コイツは食っても不味そうだ……」と言いたげな顔で立ち止まった。

​ タカシは涙と鼻水、そして股間の湿り気を抱えたまま、倒れた棚の中で「一徳」の指先だけをプルプルと震わせた。

​「……下田の洗礼、漏らしましたぁ……」

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