第41話 松島⇒塩竈

 仙台での「ずんだスライディング」から命からがら逃げ延びたタカシは、日本三景・松島へと辿り着いた。

「……海だ。海なら、きっと全てを洗い流してくれる」

 ボロボロの絆創膏を貼り直し、彼は大型遊覧船に乗り込んだ。

​ 島々を巡る穏やかな波。タカシは船のデッキに立ち、潮風に吹かれながら、喉の奥から絞り出すようにあの台詞を吐いた。

​「松島の絶景……いただきましたぁ~~」

​ ねっとりとした一徳ボイスが海面に触れた瞬間、空の色が鉛色に変わった。

 船が塩竈しおがまの港に近づくにつれ、海面から無数の青白い「手」が突き出してきた。

 それは、かつての大震災で命を落とし、未だに安らぎを得られぬ亡霊たちだった。

​「……連れて行け……」

「……我らと共に……底へ……」

​ 震える声が波の音に混ざる。亡霊たちは船の縁を掴み、ズルリ、ズルリとデッキに這い上がってくる。その姿は濡れた土のようで、足元からは冷たい海水が溢れ出していた。

​「ひ、ひえぇぇっ! またこれだ! 震災の記憶、重すぎますって!」

​ タカシは必死に船内へ逃げ込もうとした。しかし、塩竈港の岸壁に接岸しようとしたその時、大きな衝撃が走った。亡霊たちの怨念か、船が岸壁に激しく衝突したのだ。

​「うわあああ!」

​ タカシは得意の「コケ」を発動させるべく、派手に足を滑らせた。

 だが、今回はただの転倒ではなかった。足元にあったのは、観光客が食べ歩きをしていた**「塩竈名物・生マグロの頭」**。そのヌルヌルとした脂に乗り、タカシは空中を二回転半した。

​「メ、メロン……じゃなくて……!」

​ 空中で一徳のポーズを決めようとしたが、身体が変な方向にひねられ、そのまま岸壁に積まれた大量の塩の山へとダイブした。

​「ズボォォォォォッ!!」

​ 全身が塩まみれ。真っ白になったタカシが這い出すと、目の前には亡霊たちが迫っていた。

「……熱い……塩が……染みる……」

 亡霊たちは、タカシに付着した清めの塩を嫌がり、苦悶の表情で海へと戻っていく。

​「あ、あれ? 塩で助かった? ……塩、いただきましたぁ……」

​ 真っ白な顔で一徳の真似を完遂しようとしたタカシ。

 しかし、その背後で再び轟音が響いた。

 塩竈港に係留されていた巨大な漁船が、亡霊たちの最後の力によって陸に押し上げられ、タカシの目と鼻の先に「ドォーン!」と鎮座したのだ。

​「……もう、帰りたい。学校で機関銃撃ってた方が、まだ平和だった……」

​ タカシは塩の山に埋もれたまま、遠くで鳴り始めた夕暮れの鐘の音を、虚無感たっぷりの目で見つめていた。

​ さて、次はどこへ向かうか?

 ​

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