第39話 二本松の怪

 飯盛山でのヘリ墜落という大惨事から、這々の体で逃げ出したタカシ。

「福島はもうこりごりだ」と呟きながら、彼は隣の二本松市へと流れ着いていた。

​ ここは二本松少年隊の地。飯盛山の白虎隊よりもさらに若く、12歳や13歳の少年たちが故郷を守るために散っていった場所だ。

 タカシは二本松城(霞ヶ城)の石垣を見上げ、ズキズキ痛む鼻をさすりながら、懲りもせず例のポーズを決めた。

​「歴史の重み、いただきましたぁ~~」

​ ねっとりとした岸部一徳ボイスが静かな城跡に響く。

 その瞬間、周囲の気温が急激に下がった。

​「……おぬし、何奴だ……」

​ 背後から、幼さの残る、しかし氷のように冷たい声が重なり合って聞こえてくる。

 振り返ると、そこには霞のような白装束に身を包み、旧式のゲベール銃を抱えた十数人の少年たちが立っていた。二本松少年隊の亡霊たちである。

​「え、あ、いや、僕はただの観光客で……」

 タカシが後ずさりすると、少年隊の一人が鋭い目でタカシの背中を指差した。

「その背の文字……『ゴミ箱』とは、我が軍の陣名か? それとも敵軍の侮蔑か?」

​「これ、書き直すの忘れてた!」

 タカシはパニックになりながら、必死に岸部一徳の真似で場を和ませようと試みた。

「いやぁ、これはその……現代の、アバンギャルドなファッションでしてね。メロン、差し上げますから……」

​ しかし、亡霊たちに現代のシュールなユーモアは通じない。

「不届き千万! 遊び半分でこの地を汚す者は、我らが銃の錆にしてくれる!」

​ 少年隊が一斉に銃口を向ける。

「待って! 僕も機関銃ぶっ放したことあるから! 仲間、仲間だから!」

 叫びながらタカシは脱兎のごとく走り出した。

​「追え! 逃がすな!」

 背後から聞こえる裸足の足音と、ジャラジャラという装備の音。

 タカシは城跡の急な坂道を必死に駆け下りる。

​「はぁ、はぁ……なんで僕ばっかりこんな目に!」

​ 必死に逃げるタカシの前に、絶好の隠れ場所が見えた。観光用の大きな木造のベンチだ。あそこに飛び込めば、亡霊たちの目をごまかせるかもしれない。

 彼は渾身の力でジャンプした。

​「……いただきましたぁ!」

​ 空中で本日一番のキレを見せる一徳ポーズ。

 だが、運命は非情だった。

 着地した場所には、昨晩の雨で湿った大量の菊の落ち葉がたまっていた。

​「うわっ、ととと!?」

​ ズルリ、と足が滑る。

 タカシの体は、まるで漫画のように真上へと跳ね上がり、そのまま後頭部から二本松名物の「菊人形」の展示ブースへと突っ込んだ。

​ ボゴォォォォン!!

​ 見事に作り込まれた「徳川家康」の菊人形と正面衝突し、家康の首がポーンと空を舞う。

 タカシは家康の胴体に頭から突き刺さり、足だけをバタバタとさせながら逆さまになった。

​「……いたたた……。家康公の加護、いただきました……」

​ 逆さまの視界の中で、追いついてきた少年隊の亡霊たちが、家康の首を失った無残な姿と、そこから生えているタカシの足を見て、あまりのシュールさに戦意を喪失し、スーッと消えていくのが見えた。

​さて、この後どうしましょうか?

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