第37話 鉄の雨が降る教室

 放課後の教室は、放り投げられた机と、嘲笑の声で満ちていた。タカシは、床に散らばったノートを拾い集める。彼の背中には、誰かがマジックで書いた「ゴミ箱」という文字。

 主犯格の男、佐伯がタカシの頭を軽く叩きながら笑う。

「明日までにこれ、全部清書しとけよ。ゴミなんだからさ」

​ タカシは何も言わない。ただ、足元に置かれた重たいスポーツバッグを、抱きしめるように強く握りしめた。

​ 放課後の校舎裏。タカシはバッグのジッパーを開ける。

 そこには、重厚な油の匂いを放つ、漆黒のサブマシンガンが横たわっていた。

 叔父のガレージで見つけた、古びているが手入れの行き届いた「力」。

 指先で冷たいトリガーに触れる。

 これまでの屈辱、無視された叫び、震える夜。それらすべてが、この一挺の鉄塊に凝縮されていく感覚があった。

​ 翌朝。タカシは教室のドアを静かに開けた。

 いつものように佐伯が口を開きかける。「おい、宿題は——」

​ 言葉は最後まで続かなかった。

 タカシがバッグから引き抜いた銃口が、教室の空気を一変させたからだ。

「静かにして。今は僕が話す番だ」

​ パニックが起きるより早く、タカシは引き金を引いた。

 タタタタタタッ!

 狙ったのは人ではない。佐伯が足を乗せていた机、そして教室の壁に飾られた「友情」という文字の習字。

 乾いた発射音が耳をつんざき、火花が散る。

 一瞬で静まり返る教室。佐伯は腰を抜かし、喉を鳴らすことしかできない。

 ​タカシは熱を帯びた銃口を下げ、初めて佐伯の目を真っ直ぐに見つめた。

「どう? 誰にも聞こえなかった僕の声より、少しは分かりやすいかな」

 ​校庭にサイレンの音が響き始める。

 タカシは銃を置き、窓の外に広がる青空を眺めた。彼の表情には、後悔も、そしてかつての怯えもなかった。ただ、やり遂げた者だけが持つ、奇妙なほど透き通った静寂が宿っていた。

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