第36話 朱に染まる五七五七七

 西園寺を恐怖の極致に叩き落とした山田の前に、予期せぬ「介入者」が現れた。

 この狂った世界には、ポイントを稼ぐためだけに芸術的な殺戮を行う集団が存在する。その名も**「歌人会かじんかい」**。

 ​彼らは「夕凪中学校」の旧校舎を占拠し、かつて山田の妹をいじめていた主犯格たちの生き残り―― 今や無責任な放蕩息子や娘となった者たちを、血塗られた「百人一首」の札に見立てて並べていた。

 寂しさに 宿を立ち出でて…

​ 校舎の屋上、夕暮れのなぎが不気味に静まり返る中、一人の生徒が首に縄をかけられ、空中に吊るされていた。その胸には、血で書かれた札が貼り付けられている。

​『さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば……』

​「……い、嫌だ! 助けてくれ山田!」

 かつて妹の教科書を破り捨てた少年が、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして叫ぶ。

​ その背後から、和服にガスマスクをつけた歌人会の「詠み手」が、鋭利な筆刀を閃かせた。

​「次の一句は……これだ」

​『いづこも同じ 秋の夕暮れ』

​ 一閃。少年の喉笛が横一文字に裂かれ、鮮血が夕陽に照らされて校庭へと舞い散る。その光景は、あまりにも残酷で、それでいて完成された狂気の美学があった。

 殺戮の競技かるた

​「山田様、ようこそ。あなたの妹君を苦しめた『罪人とりふだ』は、まだ九十九枚残っております」

​「……勝手な真似を。俺の獲物を横取りするな」

​ 山田は火薬グローブを鳴らし、校舎の壁を駆け上がる。屋上に着地した彼を待っていたのは、百人の生徒たちが、和歌になぞらえた無残な姿で配置されている地獄絵図だった。

​『しのぶれど 色に出でにけり……』

 ある者は、恋心を寄せていた相手と無理やり背中合わせに縫い付けられ、

『わが恋は 物思ふころの……』

 またある者は、熱した鉛を喉に流し込まれ、二度と「恋」を語れぬ骸と化していた。

 令和の断罪歌

​「こいつらは俺が殺す。お前たちの『芸術』など知ったことか」

​ 山田は「詠み手」の胸ぐらを掴み、そのまま火薬グローブを爆発させた。

 ドォォォォォン!!

​ ガスマスクが砕け散り、詠み手は校庭の百首の死体の上に落下する。

​「ポイント……獲得……。だが、足りない。こいつら全員殺しても、妹は戻らない……!」

​ 山田の腕のデバイスが、狂ったように数値を更新し続ける。

​【通知:『夕凪中の惨劇』完了。50,000,000G獲得。ランク『G:神(ゴッド)』への移行を開始します】

​ 血の海と化した校庭を見下ろしながら、山田は最後の一首を口ずさんだ。それは、彼が妹の葬儀で誓った、復讐の終わりの歌だった。

​「久方の 光のどけき 春の日に……静心なく 散るは……お前たちの命だ」

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