第35話 断罪の断崖

 廃車の怪物と化した美波の追撃を振り切り、山田は西園寺が潜伏する私有地の断崖絶壁へと追い詰めた。しかし、そこには西園寺を守る「最後の砦」として、かつて山田を最も執拗に虐めていたエリート社員・河村が立ちはだかっていた。

​ 河村は、山田が極限状態になると言葉が詰まる性質を、かつて会議の場で徹底的に笑いものにした男だ。

 変わらない嘲笑

​「お、お、お、おい山田ぁ! そんな物騒なグローブつけて、な、な、何がしたいんだよぉ!」

​ 河村は、山田の昔の吃音を大げさに真似し、周囲のSPたちと肩を揺らして爆笑した。

​「……っ……」

​「あ、あれ? また言葉が出ないのか? 『ぼ、ぼ、僕に、ふ、復讐させてください』ってか? ギャハハ! ポイントをいくら積んでも、中身はあの時の『ドモリの山田』のままだな!」

​ 河村は崖の縁で、挑発的に腰を振って踊ってみせる。彼は信じているのだ。この狂った世界でも、精神的な優位性だけは変わらないと。

 無言の宣告

​ 山田の瞳から感情が消えた。金色の輝きが、静かな、しかし破壊的な光を帯びる。

​「……もう、喋る必要はないな」

​ 山田は超高速の踏み込みを見せた。SPたちが銃を構える暇さえ与えない。河村の目の前に一瞬で移動すると、その細い首を火薬グローブの熱い掌で掴み上げた。

​「が、はっ……!?」

​「お前が真似したその声は……俺の妹が、死ぬ間際に助けを呼んだ時の震えと同じだ」

​ 山田は河村を崖の外へと突き出した。眼下には、荒れ狂う冬の海と、鋭利な岩礁が牙を剥いている。

​「や、やめろ! 悪かった! 謝るから! ポイント、全財産やるから!」

​「いらないよ。お前の言葉には、1Gの価値もない」

 落下の査定

​ 山田は掴んでいた手を、ゴミを捨てるように離した。

​「あ、あああああああぁぁぁぁ……ッ!!」

​ 河村の滑稽な叫び声が遠ざかっていく。岩礁に激突する鈍い音と共に、デバイスから冷徹なアナウンスが響いた。

​【通知:ターゲット死亡。ポイント獲得:0.001G。価値:『環境汚染物質』として処理されました】

​「……安すぎて、笑いも出ないな」

 ​山田は崖の下を一瞥もせず、奥の社長室のドアを爆破した。そこには、恐怖で失禁し、椅子に縛り付けられたように震える西園寺部長の姿があった。

​「西園寺……お前の査定を始めようか」

​ 山田の「最終査定」が始まります。

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