第26話 竹生島〜​密航する牙〜

 狼たちの咆哮が響き渡る本土を離れ、狂気はついに琵琶湖に浮かぶ聖域、竹生島ちくぶじまへと飛び火した。


​「ここは安全だと言ったじゃないか!」

​ 激しく波打つ湖面を小型ボートで渡り、竹生島へ逃げ延びたのは、工藤教授に屈辱を味わわされた田中講師と、命からがら逃げ出した数名の学生たちだった。しかし、彼らが上陸した「神の住む島」は、もはや救いの地ではなかった。

​ 本土から脱走した狼たちは、驚くべき執念で凍てつく琵琶湖を泳ぎ切り、あるいは放棄された漁船に紛れ込んで島へと上陸していた。

​ 神聖な弁才天を祀る宝厳寺ほうごんじの石段は、今や狼たちの通り道となっていた。暗闇の中、重要文化財の唐門からもんの影から、黄金の瞳が田中たちを凝視する。

 聖域の「カップル狩り」

​ 島には、本土の騒乱を逃れてきた観光客のカップルも数組隠れていた。しかし、ここでも「狩り」は続いていた。武装集団の残党が、島の入り口を封鎖し、神社の境内で残酷な選別を始めていたのだ。

​「学歴も、教養も、神の加護も……ここでは何の役にも立たない!」

​ 狂乱した工藤教授が、暗闇の中で叫ぶ。彼は島に伝わる古文書を手に、「狼を操る術」を探そうと血眼になっていた。だが、彼の背後には、すでに一頭の巨大な黒狼が音もなく忍び寄っていた。


 ​鈴木の決断

​ 一方、鈴木はリナと白狼と共に、奪ったモーターボートで竹生島を目指していた。

​「あそこが終着点よ、鈴木さん」

​ リナの横顔は、もはや女子高生のそれではない。月の光を浴びた彼女は、島に古くから伝わる伝承の巫女のような神々しさを放っていた。彼女の手には、鈴木が書き上げた小説の原稿が握られている。

​「あなたの書いた結末が、この島で現実になる。……いじめも、差別も、虚飾に満ちた愛も、すべてがこの島の土に還るの」

 湖上の対峙

​ 島に上陸した瞬間、鈴木の目に飛び込んできたのは、無惨にも食い散らかされた工藤教授の遺体と、その傍らで腰を抜かして震える田中講師の姿だった。

​ そして、境内の中心。

「カップル狩り」のリーダーが、最後の一組のカップルを崖際に追い詰めていた。

​「さあ、神の前で愛を証明してみせろ」

​ リーダーが引き金に指をかけたその時、鈴木は叫んだ。

「待て! その結末は、僕が書き換える!」

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