第13話 遠隔の処刑椅子

 監視塔の最上階。タクヤが階段を登り切ろうとしたその時、目の前の扉が自動で跳ね上がった。

​ そこに立っていたのは「鎌の継承者」ではなかった。

 広々とした展望フロアの中央、月明かりに照らされていたのは、一台の電動車椅子。そこに座っていたのは、渋谷の爆発で下半身を失い、顔の半分が焼けただれた**「元・理事長の息子」**――あの黒いSUVを運転していた男だった。

​「よう、タクヤ……。ゲームの続きを楽しんでるか?」

​ 男は動かない。だが、車椅子の両サイドには、タクヤの持つものより遥かに大型のライフルが**「遠隔操作式銃架(RWS)」**として据え付けられていた。男の指先にあるジョイスティックがわずかに動くと、二門の銃口がサーボモーターの音を立て、正確にタクヤの眉間を捉えた。

​「コーナーショット? 狭い路地裏の武器だな。これは軍用だ。視認した瞬間に、お前の身体は消し飛ぶぞ」

 屈折する銃口 vs 遠隔の瞳

​ タクヤは咄嗟に、展望フロアにある円柱の影に身を隠した。

 直後、凄まじい銃声と共にコンクリートの柱が削り取られる。男は車椅子から一歩も動かず、手元のモニターを見ながら、タクヤの「死角」を確実に潰していく。

​「ヒ素の煙幕をまくつもりか? 無駄だ。このカメラは熱源感知(サーマル)だ。お前の心臓の音が、モニター越しに丸見えなんだよ!」

​ タクヤは柱の陰で息を殺した。コーナーショットを「くの字」に曲げ、レンズをそっと突き出す。だが、相手の遠隔銃は、タクヤの銃口がコンマ一秒でも自分を向けば、即座に反応する自動追尾モードに切り替わっている。

​「……サキ、悪いけど協力して」

​ タクヤは、階下に残してきたはずのサキに無線で指示を送った。

 数分後、監視塔の反対側から、大きな物音が響いた。サキが投げた、ヒ素の粉末を詰めた消火器だ。

​「そこか!」

 車椅子の男が銃口をそちらへ向けた。熱源感知が、消火器の化学反応による温度変化に反応した。

​ その一瞬の隙。タクヤはコーナーショットを真横に突き出し、モニターも見ずに**「音と熱源の記憶」**だけで引き金を引いた。

 暴走するスコア

​ タクヤの放った9mm弾は、車椅子に搭載された制御ユニットを直撃した。

 火花が散り、遠隔銃が制御を失ってあらぬ方向へ連射を開始する。

​「なっ、制御が……!?」

​ 狼狽する男の背後から、影が伸びた。

 天井の梁に潜んでいた**「鎌の継承者」**だ。彼はタクヤと車椅子の男が相打ちになるのを待っていた。

​「お疲れさん、理事長のドラ息子。お前のスコア、俺がいただくぜ」

​ 高周波振動鎌が閃き、車椅子ごと男の首を跳ね飛ばした。

 展望フロアに血の雨が降り注ぎ、運営サイトの掲示板には過去最高額の配当通知が乱舞する。

​『鎌の継承者:1000pt獲得(ターゲット奪取ボーナス)』

​「さあ、タクヤ。最後は俺とお前だ」

​ 継承者は、血濡れの鎌を肩に担ぎ、柱の陰に潜むタクヤを見据えた。

 タクヤの手元にあるコーナーショットの残弾は、あと一発。

 そしてサキは、混乱の中で姿を消していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る