第5話 ​サウナでうなされる

 キャンパスの地下、古びた研究棟の最下層には、かつてスポーツ科学の実験施設として使われていたプライベートサウナが残っていた。

​ 地上で「鎌の男」と「銃を持つ黒田」が対峙し、黒いSUVが炎を上げているその裏で、もう一つの惨劇が人知れず進行していた。

​ サウナ室の中では、怪我から回復しつつあった美咲と、彼女を励まそうと付き添っていた学友のカップルが、束の間の休息をとっていた。大学病院の分室に近いこの施設は、二人にとって唯一の安らぎの場のはずだった。

​「……ねえ、なんか熱すぎない?」

​ 美咲が異変に気づいたときには、すでに遅かった。

 サウナ室の木製の重いドアが、外から頑丈な鉄パイプで固定され、ビクともしなくなっていた。

 ボイラー室の影

​ 地下のボイラー室。

 そこには、返り血を浴びた一人の「清掃員」の姿があった。

 彼は黒田と同じく、この大学から一方的に解雇を言い渡された男だった。だが、彼の復讐は黒田のような衝動的なものではなかった。

​ 男は冷徹な手つきで、ボイラーの緊急過熱スイッチをバイパスし、燃料の供給量を最大まで引き上げた。

​「ゴミは、焼却処分しなきゃいけないんだ」

​ 制御盤の警告灯が真っ赤に点滅し、地下通路に蒸気が吹き出す。

 ボイラーは限界を超えて唸りを上げ、サウナ室へ送られる温度は、もはや生存不可能な180度を超えて上昇し始めた。

 断末魔の連鎖

​「開けて! 誰か、開けて!!」

​ 熱風に焼かれ、喉をかきむしるカップルの絶叫は、厚い防音壁と地下のコンクリートに吸い込まれていく。皮膚が焦げる悪臭が立ち込め、視界は熱による陽炎で歪んでいく。

​ その時だった。

 地上で黒田が放った銃弾の一発が、偶然にも地下へ続く燃料パイプを直撃した。

​ 激突したSUVから漏れ出したガソリンに、黒田の銃火が引火する。

 炎は一瞬にして地下へと駆け抜け、過熱しきったボイラー室に到達した。

​――大爆発。

​ キャンパスの地面が大きく跳ね上がり、研究棟は内側から崩落した。

 サウナ室で焼死したカップル、銃を握ったまま爆風に飲まれた黒田、そして鎌を振るい続けた怪人。

​ すべては等しく、巨大な炎の中に消えていった。

​ 翌朝、渋谷の空には、何事もなかったかのように冬の冷たい太陽が昇った。

 ニュースは「大学施設での大規模なガス爆発事故」と、その犠牲者たちの名前を淡々と読み上げる。

​ だが、焼け跡から見つかったのは、ひしゃげた鎌と、一発も弾丸の残っていない拳銃。そして、外側から施錠されたサウナ室のドアノブだけだった。

​ 都会の喧騒は、今日もその真実を飲み込み、何事もなかったかのように動き続ける。

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