第4話 狂気の歯車

 キャンパスの喧騒から隔絶された非常階段の踊り場。健太が鎌の男の影に怯えていたその頃、大学の裏門付近にある大型ゴミ集積場には、もう一人の絶望した男が立っていた。

​ 黒田。

 一ヶ月前までこの大学の設備管理を請け負っていた派遣社員だ。不況の煽りを受けた「契約満了」という名の切り捨て。昨日、ついに家賃が払えずアパートを追い出され、彼はかつての職場だった大学のゴミ捨て場を漁るまでになっていた。

​「なんだ、これ……」

​ カビの生えた弁当の殻をかき分けた黒田の指先が、ずっしりと重い「塊」に触れた。

 油の匂いと、冷徹な鉄の肌触り。

 引きずり出したのは、コンビニ袋に包まれた一丁の自動拳銃だった。

​ なぜこんなところに銃があるのか。考える余裕はなかった。

 その時、黒田の視界を、猛スピードでキャンパス内に突入してくる黒いSUVが横切った。数週間前、渋谷でカップルを跳ね飛ばし、そのまま闇に消えたあの車両だ。

​「……これさえあれば」

​ 黒田の瞳に、濁った光が宿る。自分を捨てた社会、自分を無視して通り過ぎる世界。すべてを撃ち抜ける力が、今この手にある。

 激突のキャンパス

​ 研究棟のロビー。

 鎌を振り上げる怪人、逃げ惑う健太、そして暴走するSUV。

 そこへ、自動拳銃を構えた黒田が乱入する。

​「どいつもこいつも、笑ってんじゃねえぞ!」

​ 黒田が闇雲に引き金を引き、銃声が静寂を切り裂いた。

 放たれた弾丸はSUVのフロントガラスを砕き、同時に鎌の男の肩をえぐる。

​ SUVは急ハンドルを切り、ロビーの円柱に激突。ひしゃげた運転席から、血まみれの男が這い出してきた。その顔を見た健太は息を呑む。それは、テレビで何度も見たことのある、この大学の理事長の息子だった。

​「ひき逃げも、鎌の男も……全部、この狂った街のせいだ」

​ 黒田が銃口を震わせながら、倒れた男たちへ歩み寄る。

 右手に鎌を持つ怪物、左手に銃を持つ絶望者。

 渋谷の惨劇から始まった呪いの連鎖は、冬のキャンパスで最悪の結末を迎えようとしていた。

​ 遠くから、本物のパトカーのサイレンが近づいてくる。

 だが、その音が届く前に、誰が引き金を引き、誰が鎌を振るうのか――。

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