第2話 逃走の果て
振り下ろされた鎌の刃が、健太のコートの袖を裂く。
「逃げて、美咲!」
健太は彼女の腕を引き、路地裏から大通りへと飛び出した。背後からは、アスファルトを「カツ、カツ」と叩く鎌の不気味な音が追いかけてくる。男は走っているわけではない。だが、まるで空間を飛び越えてくるかのような速度で、着実に距離を詰めてくる。
二人は、深夜でも車通りの絶えない国道246号線沿いの歩道に躍り出た。
並走する車のヘッドライトが、死神のような男のシルエットを白く焼き付ける。
「あいつ、まだ来る……!」
美咲が息を切らしながら振り返った瞬間、前方から異常なエンジン音が響いた。
重低音を響かせ、スピードを上げた黒塗りの大型SUVが、蛇行しながら歩道へと突っ込んでくる。街路樹をなぎ倒し、標識を火花とともに跳ね飛ばすその挙動は、明らかに殺意を孕んでいた。
「危ない!」
健太が美咲を突き飛ばした直後――。
――ドンッ!
鈍い衝撃音。
健太の視界が上下に反転する。
空中に投げ出された彼の視界の隅で、美咲が、そして追いかけてきていた「鎌の男」さえもが、鉄の塊に飲み込まれるのが見えた。
SUVはスピードを緩めるどころか、さらにアクセルを踏み込んだ。ひしゃげたバンパーの下で何かが軋む音をさせながら、車は夜の渋谷の闇へと消えていく。
残されたのは、真っ赤に染まったアスファルトと、折れ曲がった鎌。
遠くから聞こえるサイレンの音さえも届かないほど、健太の意識は遠のいていく。薄れゆく視界の中で、彼は見た。逃げ去ったSUVのテールランプが、まるで嘲笑う獣の眼のように赤く光っているのを。
「ひき逃げだ……誰か……」
助けを求める声は、都会の無機質な夜風にさらわれ、消えていった。
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