囚われのお姫様

 きっと、■■《幼いフーカ》はにいる。

 そんな確信をもって、迷いなく森の奥へ突き進む。


 道中の魔物は一瞥もせずに仕留めた。突進してくる野生動物なんて気にも留めなかった。

 あの場所捨てられた場所に着いた途端、また■■が現れる。


≪来た、来た。認める気になった?≫


 ■■は、サンタを待つ子供のようだった。


「認める?何を?」

≪惚けるの?惚けるの?ねえ、まさか、なかったことになんてしてないよね?≫


 その問いに、フーカは答えなかった。■■は悲しそうな顔でまた姿を消した。


 ■■がいた場所には錆だらけの鎖が落ちていた。それは一本の木に繋がれていて、古い血が付いていた。

 フーカは古い血に触れる。調べなくてもわかりきったことだが、一応、簡単な解析魔法で調べる。想像通り、その血はフーカのものだった。


「……そうじゃないと、おかしいものね。」


 安堵したような、胸が締め付けられたような。

 木に背を向けて歩き出そうとした瞬間、突風が吹いた。


≪こっちだよ。こっちだよ。早く来てよ。早く認めなよ。≫


 風に乗って聞こえる■■の声。同時にフーカの頭に浮かぶノイズだらけ映像。ノイズの向こうは、がいくつかぶら下がっているように見えた。なるべく意識を背けて、見ないようにした。しかし、頭に浮かぶものは見えてしまう。どうしても意識が向いてしまう。

 フーカは痛む頭を押さえて声に抗おうとするが、無駄だった。足は勝手に声が聞こえる方へ動いていた。


(嫌、嫌、嫌!行きたくない、見たくないわ!そんなの、そんなの……!)


 心の中で抵抗し続けた。

 フーカは、進む先に何があるのかを知っている。だからこそ見たくなかった。見れば、■■の言う通りになる気がした。

 しかし、足は止まらない。自分の意志ではなかった。きっと■■の仕業だった。必死に目を瞑って見ないようにした。

 段々森の香りが変わる。土の感触が変わる。空気が変わる。

 それは、フーカの見たくないものが眼前に広げられていることを表していた。


≪ねえ、ねえ、着いたよ。見なよ。認めなよ。どうして目を瞑っているの?≫

「見たくないからよ。」


 先程より近い距離で■■の声が聞こえる。目の前にいるのだろう。

 あまりにも気持ちが悪くて、頭が酷く痛んで、汚い土のことなんて気にせずに座り込んだ。


≪酷い、酷い、酷いよ。どうして見ないの?≫


 ■■の声が、苛立ちのようなものを含んできた。

 耳を塞いでも、変わらず■■の声が響く。幼い自分がずっと責めてくる。


≪わかるでしょ?わかるでしょ?ねえ、ねえ、目を開けてよ。≫

(やめて……やめて……ッ!)


 ギュッと強く目を瞑る。涙が溢れる。心の中は恐怖で満たされていた。

 逃げ出したいのに、足が動かない。立ち上がれない。

 鼓動はどんどん早くなる。今にも爆散して死んでしまうんじゃないかという程。


「どうして……どうして今更なの!?」


 カラカラに乾いた喉から必死に声を上げる。


≪ずっと伝えてきたよ。無視したのは、見て見ぬふりしたのは貴方だよ?早く向き合っていたら、早く認めていたら、こんなことにはならなかったのに。≫

「うるさいッうるさいわよ!黙りなさいよ!」


 必死に首を振る。決してそれは否定ではなかった。イヤイヤ期の子供が反抗するときのような弱弱しいものだった。


 ■■は永遠にこちらを責めてくる。

 精神に限界を迎え、フーカの意識は落ちた。

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