ある日 森の中 ■■に出会った

 フーカは突然、過去の夢を見るようになってしまった。急に出てきてから毎日。同じシーンを。


「フー?大丈夫なの?」


 セイがフーカの顔を覗き込む。それは明らかに心配している表情だった。


「え?何のことかしら?」

「最近、顔色が優れないから。」


 自覚はなかった。しかし、心当たりはあった。


「……大丈夫よ。あたしは元気!」

「無理はしちゃダメだからね。」

「ふふ、ありがとう。」


 大事な仲間が目の前にいる。それならば、過去の酷い夢なんて何てことない。それでも、夢によってフーカはジワジワと蝕まれていった。


 ある日、6日振りに店の扉が開いた。


 依頼内容は「ある森に出る幽霊の調査」だ。


「幽霊?」

「別に悪いものじゃないらしい。食材を分けてくれたり、迷っているところを助けてくれたり。」

「なんで調査するの?」

「さあ?」


 受けたものは仕方がない。皆で詳細を確認する。

 そのとき、森の名前を見た瞬間、フーカの胸がざわつき始めた。


「フーカちゃん?どうしたのぉ?」

「な、何でも、ないわ……。」


 その森は毎晩夢に出てくる、母親がフーカを捨てた場所だった。


「ねえ、フー。流石に最近様子がおかしい。今からでもこの依頼断って……。」

「それはダメ!」


 つい声を荒げてしまったが、この依頼を断れば悪夢が永遠に続くような気がしたのだ。そんなことになれば、本当に壊れてしまう。それに、その幽霊はフーカと関係がある、どうしてもそうとしか考えられなかった。毎晩見る夢も、この依頼のために会ったのだろう。


「早く、行きましょ。」

「え……わ、分かった。」


 件の森はウレンサ王国の南側に位置するセウラーヴァ公国管轄の森で『エラマの森』と呼ばれる場所だ。その近くに、フーカの生まれ故郷___レイトラプシ村がある。


 幽霊の出る条件は簡単だ。その森の中でになればいい。迷子でも魔物に襲われるでも、失くし物したでも、何でもいい。ただ困ればいい。

 しかし、フーカにはそんなことなくても、幽霊を呼ぶことができる___そんな気がした。


「この調査、あたしに任せてもらってもいい?」

「わかった。じゃあ、ここで待ってるから。行ってらっしゃい。」


 3人を置いて、森に入る。

 1年程だろうか。母親に捨てられてその位はこの森で生きていた。


「ねえ、居るんでしょう?あたし。」


≪居るよ、居るよ。ここに居るよ。来てくれたんだ。≫


 適当に呼びかけると、すぐに出てきた。その姿は紛れもない、幼い___まだ『フーカ』という名前がついていない頃のフーカが半透明な姿で出てきた。


「だって、呼んだのはアンタでしょ?」

≪そうだよ。≫


 幼いフーカは楽し気に笑う。親に捨てられたとは思えない程明るかった。


≪あのね、あのね、■■はね___≫

「あたしは■■じゃないッ!!」

≪……。≫


 頭にノイズがかかる。忌まわしい名前。父親がつけた名前。母親に愛されなかった子の名前。


「あたしはフーカよ。」

≪……認めないの?■■は___≫

「黙りなさい。その名前で次呼んだら、容赦なく撃つわよ。」


 フーカが今までにない生気を失った声で武器を幽霊に向ける。勿論、幽霊に攻撃なんて効きもしないから脅しにもならないのだが。


≪ねえ、ねえ、いいの?このままだと出られないよ?苦しいよ?≫

「うるさいわね。もう過ぎたことでしょ?」

≪囚われているのは貴方なのに?≫


 正直、耳を塞ぎたかった。過去の自分の声が頭に響いて、うるさかった。


≪ねえ、ねえ、待ってるよ。貴方が認めるまで。≫


 そういって、■■《幼いフーカ》は、笑いながらフーカの前から消えた。

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