第5話 悪くはないが良くもない呆気ない結末

魔王城まで、あと少し。ここが侵略された最後の街か。

そこは遊園地の街だった。過去、観光客が多くいたのだろう。ホテルや民宿、食堂やカフェがあった。

今はもう動かないカンランシャやメリーゴーランドが哀愁を誘う。

錆びたカンランシャをみて溜息を着いていると、モネが「ねぇシェル!見てこれ。」と着ぐるみを被って出てきた。お世辞にも可愛いと言えないマスコットはまだ綺麗なままだった。

思わず吹き出し、笑う。

平穏な空気を壊すように低い声が響く。

「おや、呑気ですね。他の街を奪還されていたので威厳のある方だと思っていたのですが…。」

どうやら、魔王直属の部下らしい。私は剣を、モネは銃を構える。息を吐き、呼吸を整える。

いつ仕掛けてきてもいいように。

警戒した雰囲気を察したのか、彼は「あっ、別に戦闘する気は無いのですよ?ただ、ほのぼのしているなぁ、と感じただけで…。魔王様から伝令を預かったので伝えに来ただけですよ。すみません、勘違いさせてしまって…。」と腰の低い様子で説明してきた。

威厳のある風貌、低くて威圧感のある声。

それとは裏腹に普通にいい人だった。申し訳ない。「そうか。こちらもすまない。それで、伝令とは?」 「魔王様が、直々に話をしたい…と。話と言いつつ戦闘をけしかけるとかは魔王の名に誓ってしないのでご安心を。」

なんか妙に下手に出てきて調子狂うな…。

モネも同じ考えだったらしく、「そうなんだぁ〜。でも信頼出来ないからさぁ、魔力封じる結界とか張ってもいいかな?」と言ってきた。

魔族にとって魔力は必要不可欠で、人族にとっての水のようなもの。それを封じると言うことはかなりの無礼であるはず、だったんだが…。

『ああ、別にいいのだ。吾輩こそが魔王なのだ。』と魔王が登場してしまった。

呆気なく登場する魔王に驚く。姿はぬいぐるみのように小さく、モコモコしてる。

…これが、魔王…?

思わず疑問詞になってしまう。モネが横で詠唱をし、結界を張った。

これで安心して話せるな。

『吾輩は数千年に渡って封印されていたのだ。…それで、寂しくなってしまったのだ。構って欲しくて街を奪ったりしたのだ。ごめんなさいなのだ…。』

あれ?意外にいい子だな…。

「それは別にいいんだけどぉ、噂のカクバクダン3つ分の力は?それで死傷者かなり出たはずなんだけど…。」モネがそう問うと、魔王は大変遺憾であると言った表情をしながら口を開く。

『吾輩はそんな事しないのだ。それは、とある国の異世界転生者が吾輩にぶつけてきたのだ。』

イセカイテンセイシャ、何やってるんだよ。

「では、魔王殿は大した事もしていない、と?」私が疑問を投げかけると魔王は深く頷く。

あぁ、可哀想だな。魔王ってレッテルだけで決めつけてしまった…。

「そうか、なら私は魔王殿に用は無い。これから平穏に暮らすがいい。」

上から目線の様になってしまったけど動揺に動揺を重ねていたので仕方がない。

…え?私の旅、意味なかったって事?

十個を超える都市を奪還しただけ?

魔王とのラストバトルも何もない?

…これからどう暮らそう。

思考を読み取ったかのようにモネは口を開く。

「ねぇ、シェル。これから私とまた旅をしようよ。行く宛もなく自由気ままに、さ。」

「賛成だ。モネとの旅は…、今までと違ったからな。良い刺激になりそうだ。」

私とモネはまだ旅を楽しめる。

…魔王との戦闘がなかったのは残念だが。

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勇者不在なので元王城騎士が魔王討伐します ただの人 @Tadanohito_

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