第6話 猫耳と犬耳と、乱入者たち
「うおおおおお! 悪党ども! その汚ぇ手を離しやがれぇぇぇ!!」
ザキの咆哮が草原に叩きつけられた。あいつは本当に“ヒーローの乱入”が好きだ。
野盗たちがギョッとして振り返る。その、隙だらけの背中へ――ザキは減速もせず突っ込んだ。
「ぐべぁっ!?」
先頭の野盗がボールみたいに吹っ飛び、後ろの二人を巻き込んで転がる。豪快すぎる先制。
……トラック四台に比べりゃ可愛いもんだが、敵はまだ七、いや八はいる。
俺は飛び出す前に、視線を戦場全体へ走らせた。
横転した馬車。散った荷。血の匂い。
それを守るように陣取る護衛たちは、全員が頭に獣の耳を生やした“獣人”の一団だった。
走りながらスキルを叩く。『鑑定』。
視界に情報が流れた。
パーティ名――『風のしっぽ』。
「……状況確認」
前衛で盾を構えて必死に踏ん張っている大柄な男。垂れた犬耳――重装兵(ワルダー)。
その背後、猫耳の少女が短剣を構え、隙を狙う――斥候(リア)。
さらに後方、猫耳の女性が杖を掲げ、声にならない祈りを絞り出している――司祭(ミミコッテ)。
そして、馬車の陰に倒れている二人。
腹を押さえて血をにじませる犬耳の男――神官戦士(ワール)。
肩に矢を受けて意識が朦朧としている猫耳の少女――魔導士(ミーナ)。
俺は思わず呟いた。
「猫耳、猫耳、犬耳(負傷)、猫耳(負傷)、犬耳……」
……素晴らしい。ここは天国か?
いや今は戦場だ。現実を見ろ、俺。
負傷者が二人。盾役のワルダーも肩で息をしている。ここはもう数分で崩れる――その瞬間に、ザキが敵の注意を全部持っていってる。
「テメェら何だ!」
「ああん? 通りすがりの正義の味方だ!」
ザキは剣を素手で――いや籠手で受け止め、ねじ伏せて殴り倒している。滅茶苦茶だが、目立つ。
だからこそ、今が好機。
俺は音を殺して加速した。狙うのは、後衛の司祭に回り込もうとしていた二人。
「なっ、もう一人――」
気付かれた時には遅い。
俺は身を低く沈め、一人目の懐へ潜り込む。
神詠一灯流は剣術だ。だが、土台の体術は素手でも“刺さる”。
「――『流水(りゅうすい)』」
突き出された槍を手の甲で受け流し、その勢いごと相手の顎へ掌底を叩き込む。
ガキン、と嫌な音。男の目が裏返って崩れ落ちた。
「ヒッ……し、死ねぇ!」
二人目が剣を振り上げる。遅い。トラック四台に比べれば止まって見える。
しかも今の俺はライカンスロープ。動体視力も筋力も、人間の頃とは別物だ。
半歩踏み込み、刃の内側へ。襟首と帯を掴む。
「せいやっ!」
背負い投げの要領で石畳へ叩きつけた。
ドゴォッ――息を吐く暇もなく気絶。
「え……?」
司祭のミミコッテが、呆然とこちらを見ていた。
俺はローブの裾を払い、できるだけ紳士っぽく(見た目は狼耳の少年だが)言う。
「助太刀する。礼は後だ」
「あ、あなたは……同族、ですか……?」
視線が、俺の狼耳と尻尾に落ちている。
俺は苦笑し、未だ暴れ回る赤髪の方へ顎をしゃくった。
「そこの筋肉馬鹿の飼い主だ。……おいザキ! 遊びすぎだ、片付けるぞ!」
「おうよ! こいつら弱っちぃぞシン!」
戦況が、一気に傾く。
中身五十のおっさん二人組が、異世界初戦で無双しようとしていた。
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