第3話 巻き込まれた理由と、ダクトテープ

「まだ小杉を引っ張るか若造。……ワシは神じゃ」


 子供の姿の“それ”は、見た目に似つかわしくない枯れた声で言い放った。鼻でふん、と鳴らし、足を組み替える。


「ワシはお主らにとっての“管理者”。そして、今回の転生の依頼主じゃ」


「神様、ねぇ……」


 眉はひそめた。だが否定もできない。

 白い空間。若返ったザキ。痛みのない身体。――神でも出てこなきゃ説明がつかない。


「で、その神様が何の用だ? 俺らは死んで、天国か地獄行きって話か?」


「死んだのは事実じゃ。だが、行き先は違う」


 神様は顎先でザキを指した。


「そこの山崎幸助は、ワシらの“ゲーム”のプレイヤーとして異世界へ転生することになっておる」


「なるほど。ザキが転生……そりゃ、あいつらしい。で、俺はここでお別れか?」


 そう言いかけた瞬間、ザキが前のめりで割り込んだ。


「ちげーよ! お前も来るんだよ、シン!」


「は? 俺も?」


「そうだ! 俺は神様と契約した。――お前もセットだ!」


 ザキがニカッと笑って、俺の肩をバン!と叩く。


「俺と一緒に異世界に行くんだよ!」


「……はあ。お前とセットとか、福袋のハズレ枠みたいだな」


 呆れはしたが、悪い話でもない。

 俺はトラック四台に轢かれた死人だ。本来ならここで終わり。

 それが親友のコネで“第二の人生”が拾えるなら、得しかない。


「それでな。異世界に行く代わりに、何か一つ“望むもの”を持って行っていいらしい」


「事情は分かった。お前のワガママに付き合うのは今に始まったことじゃない」


「へへっ、そうこなくっちゃ!」


 俺は腕を組み、ザキの顔を覗き込む。


「で、お前の『望むもの』って何だ?」


 こいつは昔から運がいい。どうせチート級の何かを引いてる。


「……分かった。ダクトテープだな」


「……はい?」


「ダクトテープだよ。万能だろ。武器の補修、拘束、水漏れ止め。異世界サバイバルの必須アイテムだ。違うか?」


「ちげーよ!!」


 ザキが即座に全力ツッコミを入れる。


「なんでそんな“地味に最強”を選ぶんだよ! 夢がねぇ! もっとこう……ロマンだよロマン!」


 違うのか。俺の中では、今のところ最適解だったんだが。


「さて、納得したようじゃな」


 神様が退屈そうに手を振る。


「これより『肉体の再構成(キャラクタークリエイト)』を行う」


 パチン、と指が鳴る。

 目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。ゲームの設定画面そのままだ。


「お主の魂を新しい器に入れる。外見、種族、年齢、初期スキル――好きに設定するがよい。終われば出発じゃ」


「なるほど、アバター作成か……」


 どうせなら、今の身体よりマシなのがいい。俺はウィンドウを覗き込む。


「年齢設定……神様、向こうの成人年齢はいくつだ?」


「十五じゃな」


「なら十六。若さは欲しいが、子供扱いは御免だ。契約も酒も面倒になる」


 数値を“16”に合わせる。

 次は外見と種族。デフォルトは人間だが、リストにはエルフ、ドワーフ、その他お馴染みの種族が並ぶ。


「人間はもう五十年やった。……飽きた」


 指が止まったのは『ライカンスロープ(人狼)』。


 実家の道場では「獣のように動け」と叩き込まれた。なら、いっそ獣でいい。犬も嫌いじゃない。


「黒髪。目つきは少し鋭く。体格はゴリマッチョじゃなく、スピード寄りで……」


 モデルが滑らかに変化していく。

 ピンと立つ狼耳、尻尾。黒髪ショートに、気だるげな三白眼。


「……悪くないな」


 次はスキル。ポイント表示を見て、俺は迷わず三つを選んだ。


体術マスタリ(素手での格闘補正。道場の技を活かす)


魔法マスタリ(せっかくの異世界だ。撃ってみたい)


鑑定(情報は力だ。まず相手を知る)


 活法は道場で嫌というほど叩き込まれた。身体が若返っても記憶は残るはず。枠を割る必要はない。


 俺は右下の“決定”を押した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る