第2話 「真実の家」
---第一話から
学校の面談室は、淡い日差しで満たされていた。
「お母さん、今日は面談にお越しいただきありがとうございます」
母親は笑顔で席に座り、髪は整えられ、清潔感のある服を着ていた。言葉遣いも丁寧で、教育熱心さが感じられる。
「・・・ということで、これから直樹くんの問題に向き合っていきましょう」、そう伝え、その日の面談を終えた。
その矢先、息子を迎えにきた父親も登場する。
笑顔の両親の間で手を繫ぎながら帰路につく直樹、まるで理想的な家族写真のようだった。
だが、本児の表情は無表情。目だけが、室内の空気に染まらない色をしている。
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数日後、学校の教師から電話が入った。
「相馬さん……今日、直樹くん、家に帰りたくないと言っているんです」
教室に残ろうとする直樹を前に、教師は困り果てている。
相馬はすぐに向かい、校門で待つ。
「今日は……家に帰りたくないんだね」
直樹は無言のまま、肩を少しだけすくめる。
相馬は言葉を選び、そっと手を伸ばした。
「じゃあ、家に行ってみよう。僕も一緒に行く」
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アパートの前に着くと、男女の怒声が部屋から響く。
相馬の心臓がわずかに跳ねる。
「……まさか…ここ?」
直樹は無表情のまま頷きもしない。
相馬は軽く息を整え、インターフォンを押した。
「あら、相馬さん。送ってくれたんですか。すみませんね。」
母親の声。笑顔だが、髪は乱れ、目は疲れている。
玄関から見える部屋の壁には、ところどころ穴が開き、汚れが目立つ。
相馬は心の中で確信した。
理想の象徴に見えた家族は、全く異なる生活をしている。
---
「ここに入るのは……ちょっと……」
直樹は小さく抵抗する。
相馬は落ち着いた声で提案した。
「大丈夫。今日は一時的に児童相談所で過ごしてみないか。君が安心できる場所だ」
しばらく食い下がる両親に、相馬は懇願する。
「直樹くんの問題に向き合いたい」
…嘘ではない。直樹の問題は明らかに直樹以外によるものが大きい。
ただ、それを直接伝えてしまうと提案は却下される可能性が高い。
しばらく食い下がっていた両親も、直樹の問題なら、と、しぶしぶ許可を出す。
そして、直樹と一緒に児童相談所へ向かった。
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児童相談所には、さまざまな事情を抱える子どもたちを家庭から一時的に預かり、児童相談所職員と生活を共にする場所がある。一時保護所。
一時保護所に着くと、直樹は少しだけ肩の力を抜いたようだった。
そして、ポツリと家庭の現状を語り始める。
「お父さんはお酒を飲むと暴れる…でも、そうじゃない時は優しい…お母さんはキラキラしたものにお金をいっぱい使う……でも、優しい…お腹が空く日ある…でも言い出せない…僕のためにがんばってくれてるから」
一時保護所の一室で、ようやく本音を吐き出す本児。
その後、直樹は児童養護施設に入所する。
定期的に両親との交流は続けることで両親も同意。いろいろなことが明らかになってからは、バツが悪そうにしながらも相馬の提案を受け入れるようになっていた。
児童養護施設に向かう直樹の背中を見ながら、相馬は心の中で願った。
——もう、万引きしませんように。
直樹が一時保護所に来てから二か月、季節は変わり目を迎えていた。
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