第4話 愛のー本編のはじまりー
ひろみは離婚を前提に家を出た。
静かな住宅街の一角。
車庫つきのアパート。
彼は理由がすぐに分かった。
こんな片田舎のまちで、噂にでもなれば大変なことになる
ことは目に見えてわかっていた。
だからこそ「ばれないように」という彼への配慮かと・・・。
隠すしかない二人にとって、
車庫は“安全な入口”だった。
引っ越して、そこでの生活がはじまるという
初日の訪れた春先の日、
ひろみが、欲しいと電話でいっていた壁掛け時計。
彼は、どんなのがいいか、悩んだ。
てんとう虫の針がくるくると時を刻む壁時計にした。
「似合うね」
「…うん。本当に似合うよ。」
部屋は、まだ、がらんとしていたが
真っ白な壁には、ポツンとてんとう虫の
壁時計が時を刻みはじめた。
テーブルや食器棚もつくり、
暮らせる部屋づくり・・
間違えて組み立てた食器棚をみたひろみは
「あーこれ、逆じゃない。でもいいや」
と笑った。
ソファに腰を下ろすと、
ひろみは自然に隣に座り、
肩を寄せてきた。
そのまま彼の腕に手を回した。
何も言わずとも分かった。
——この日から2人の本当の恋が始まったんだ。
引っ越して、間もない頃、
彼は、同居人の長期不在を機に
一週間、毎夕から朝まで通った・・・・
「まるで新婚家庭のようだね」と
顔を見合わせふたりで笑った。
⸻
自然と週末や休みの日には会うようになり、
彼は、待ちどうしく、いつも、朝早くでかけた
彼は,昼にいつもオイルパスタを作り、
ひろみは嬉しそうにフォークを出してくれた。
ひろみは座ると自然に寄り添ってきて、
肩が触れる距離でフォークを取ってくれた。
パスタを口に運びながら、
何度もこう言った。
「あなたがつくるパスタ。やっぱりおいしい。」
その言葉に胸のどこかが震えた。
料理なんてたいした腕じゃない。
でも、ひろみと食べるからこそおいしかった。
「これおいしい。本当に好きなんだよね、この味。」
褒め上手なのか、本当においしいのか、
とくかく、彼の作るパスタを褒めてくれた
嬉しくて、
パスタの湯気さえ美しく見えた。
食べ終わると、ひろみはそっと寄り添い、
肩に頭を預けてきた。
ただそれだけで、
世界は静かに満ちていくようだった。
“恋人”という言葉を口にしなくても、
それは恋人以上のものだった。
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