第2話 はじめてのキャラクターと、動き出す距離

その頃だったろうか

ひろみが、「いろいろ教えてもらってるお礼です。」、「昨日。ケーキ作ったんで・・」と手作りケーキをよく持ってきてくれた。


最初のシフォンケーキは、誰にも気付かれないように

彼のデスクの下にそっと紙袋に入れて、短い一言の紙と

一緒においた。


何度か、同じ事が続いた頃、

彼はレモンケーキの時に、少しほろ苦い味を感じていた。


そんな、日常的なつながりの中で


最初は業務連絡で、

夜にLINEでコメントやりとりがはじまった。


・・長い間、コメントのやりとりが深夜まで続いたが


それがいつの間にか、

「今日こんなことがあったよ」

「疲れたね、ゆっくり休んでね」

そんな日常の言葉を交換する関係になっていく。


そして——

彼のLINEスタンプ作りが始まった。


仕事が終わったあと、ひろみに聞かれた質問に答えるうちに、

彼自身もIllustratorでキャラクターを描くようになっていた。

 

最初はぎこちなく、線も震えていた。

決して、褒められたほどのスタンプではなかったし

スタンプをどうやるのかも分からなかった。

夜遅くまで描いてはひろみに送った。

 

「かわいい!」

「これ好き!」

「もっと見たい!」

 

そんな返事が返ってくるだけで、

不思議と眠気も疲れも消えた。

 

ひろみの喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、

キャラの色づけが楽しくなった。

 

毎日のようにキャラを描き、

LINEスタンプを作り、

多いときには、日に3つのスタンプを送ることもあった。


気づけば二ヶ月で百種類を超え、

ひろみにプレゼントしていた。

 

ひろみのために描く

それが、彼にとって自然な行為になっていった。


ひろみは50代になったばかりで家庭もあったが、

子どもも手が離れたので

話し合いの合意で離婚するといっていた。

彼との出会いはその最中だった・・・


彼は、20年来、再婚した女性とは、まったく馬が合わず

冷え切っていて日々、苦悩していた63才。


これ以上の関係が続けば世間で言う「不倫」

とでもいう関係になりかねない。


その現実と切なさをかき消し、紛らわすように

ひろみへのラブレターのスタンプづくりだった。


スタンプは、二人だけの淡い恋、深い心の共有だった。

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