Chapter.3『英雄の終止符』


 窓の外の景色は山道で、大量の木に囲まれている。かつて、この道を駆けていたのが懐かしい。

気がつけば村に到着しており、俺は車を出て、村の様子を確認した。


「キョンシーがいない。もう隣の村に移動し始めているのか……」


俺は、村の裏に回り、壊れかけの橋を渡る。そこから、先に開けた道があって、俺はそこに急ぐ。


「…………あーれれれれれれぇっ!?」


目の前には、焼け野原になったはずの村が焦げた状態で残っており、大量のキョンシーやカラス、そして、顔が焼け爛れた赤いスーツのハット男がいた。


「なぁに、まーだ生き残りがいたの? 殺して早くキョンシーにしなくちゃぁなあ」


どうやら、こいつが死体をキョンシーにしているらしい。ならば、手っ取り早い。


「……やってみろよ──」


俺は腰からナイフを取り出し、《スイッチ》。ナイフは刀身が伸び、刀に変形。飛び掛かってくるキョンシーたちを斬り裂いた。


「……あぁ、そおっかそおっかそういうこと!」


ハット男は三つもある目玉をギョロギョロと動かし、上を飛んでいたカラスを掴んで殺す。そして、腰から取り出した怪しい煙を口の中に注入して、死体を投げ捨てた。


ああやって、キョンシーにしているのだろう。

 カラスの体から、枝が飛び出して、それがカラスを飲み込んでいく。気付けば、ビックバードの大きさの変異カラスが立ちはだかり、咆哮を上げた。


「久しいねぇ《英雄》! 俺だよ、覚えてる? ほら、ここの村の全員、一人の女は無理だったけど、全員キョンシーにしてやったじゃん!」


その言葉に、俺は再び記憶の断片を見る。こいつは俺が村を救った時の、犯人だ。


「……あれからまた生き返ったのか? しつこい奴だな、大人しくまた、殺されてくれよ」


「……へぇ、《ヒーロー》怒ってる。そんなこと言って、らしくないじゃん。……もしかしてだけど、動揺してる?」


図星を突かれた気分。俺はバネで一気に跳ね上がり、距離を詰め、上からハット男ーーローグの首をはねる。後ろでは、既にカラスが死体に戻っていた。


「…………昔より、大したことないね。首を斬っても僕は死なない。わかってるでしょ? 弱点を攻撃しなきゃぁ」


首から細胞が伸びて、頭が拾われて引っ付く。俺がすぐそこから離れると、強烈な斬撃が地面を抉った。


「……《ヒーロー》、ゲームをしよう。君が俺を殺し、キョンシーを元に戻すのが先か、それとも、僕が逃げ切って、君の上司から村を燃やされて、また何も救えなくなるのが先か」


「…………《ギルド》を知ってるのか」


「……んまあね。どおせ怒って出てきたんだろう? あんまり長いようじゃ、あいつらは火を付けるだろお」


次の瞬間、ローグはコウモリに変わり、どこかへ姿を消す。俺は、キョンシーたちを薙ぎ払って、すぐに村の地下に潜った。


  ◇◇


 錆び付いた扉を閉めて、俺は暗い地下道を歩く。ここにはキョンシーがおらず、あるのは巨大な銭湯だけ。ここに村の住民を避難させたこともあった。


「……確か、キョンシーを元に戻すには、薬が必要だったよな」


かつて俺は、ここの銭湯のお湯と、薬草を調合して薬を作っていた。撃ち込めば、キョンシーから死体に戻るだけでなく、命も戻る。


薬草は村周辺に生えていたから、先にお湯を確保しよう。俺は、腰から空き瓶を取り出し、浴槽まで行って、まだ湯煙の立つお湯をすくい上げる。それを、百本ほど繰り返し、ついに瓶が無くなった。


「後は、薬草」


俺は銭湯から出て、地下道の先へ進む。扉を開けて地上に出ると、そこは鉄格子の迷路になっていた。しかも、目の前に広がるのは、キョンシーの群れ。服装を見る限り、村の住民たち。まだ倒すわけにも行かないので、隣の鉄格子を蹴破って、薬草を取りに走った。その時、無線が鳴る。


「……《ウサギノ》。ではなく、《ヒーロー》だったな。調子はどうだ?」


「……話しかけてくるな」


すぐに無線を切り、俺は溜息を。森林付近から薬草をある分千切って、削りながら瓶に入れて軽く振る。すると、青色に輝く液体が出来上がった。

それと同時に──


「スイッチ!」


俺は腰からハンドガンを取り出し、《スイッチ》する。すぐにショットガンに切り替わり、背後にいた男に一撃を入れた。


「……凄いねえ、流石は《ヒーロー》だ」


「……逃げるって話は嘘だったのか?」


その男は、ローグ。俺は調合した薬を腰にしまい、刀を構える。


「……んや? 君が一向に俺を殺しにこないから、来ちゃったって感じぃ」


「なら、手っ取り早い。ここで、お前を殺すだけだ──」


ローグの弱点は三つの目。そして心臓。

俺はロープをローグのハットに引っ掛け、音速で距離を詰める。背後に回り込み、後ろから心臓を突いた。


「っ゛……! へぇー、速くなったじゃん? あの時も、これぐらいの速度なら皆を守り切れたのにねぇ」


「うるさいッ──!」


俺は回し蹴りで頭に一撃を入れる。怯んだと思えば、姿をコウモリに変えて、奥の鉄塔へ飛んでいく。


「……先に治療を優先するなんて、愚かだね。守りながら戦うのは、君の苦手とすることだぁ」


声だけが響き渡り、俺はすぐに視線をキョンシーたちに移す。左手首に薬瓶を三つセットして、こちらへ向かってくるキョンシーたちに撃ち込んでいく。


セット、撃つ。セット、撃つ。を繰り返し、キョンシーたちは倒れ込み、頭のお札が剥がれ、真っ白な肌に色が戻った。


「……生き、返ってる?」


その場にいる全員に撃ち込み、瓶は残すは一つ。声の方を向けば、起き上がった村人たちが、お互いに顔を合わせ、俺を見て目を輝かせていた。


「……おい、皆見ろ。英雄様だ……!」

「英雄様!?」「まさか、俺達を助けに!?」

「ありがとう英雄様!」


《英雄》。

そうやって俺を囲み、涙して感謝する。見慣れた光景に、俺は吐き気を覚えた。思わず、溜息を吐こうとしたその時、村長らしき老人が、俺に問いかけた。


「……リンリンは、どこにいる……?」


「……! あんたが、リンリンの父親か」



無事、元に戻せて良かった。後はローグを倒すだけ。かと思えば、瓶がまだ一つだけ残っている。


「……リンリンなら特殊部隊で預かっている。ところで、あんたらの村人はこれで全員か?」


「良かった、感謝する。《英雄》様。村人はリンリンを除いて全部……いや、一人だけ足りない」


通りで、一本だけ余った訳だ。にしても、この村の奴らを救った覚えはないのに、どうして《英雄》と呼ぶのだろうか。言い伝えと言っていたし、それで知っていたのだろう。


「……わかった、あと一人は俺が何とかする。あんたらは、この村の地下に避難してくれ」


「地下、わかった。避難させよう」


「キョンシーたちに、くれぐれも気を付けろ。この刀は、一番がたいの良い奴に持たせてくれ」


俺は立ち上がり、村全体を見つめる。どれも懐かしい光景ばかりで、かつて村人と、一緒に食卓を囲んだ家が目に付いた。焦げているのに、形が保たれている。


「ローグ、あいつは何を企んでる……?」


俺はロープでスイングし、扉を蹴破った。すると、中には、見たこともない光景が。


「……トラップか!」


木製の壁は針に変わっており、俺は素早くロープを奥の扉に引っ掛ける。自動でそこに跳び、扉を再び蹴破って、鉄壁に囲まれた迷路の中に入った。かと、思えば、すぐそこに、二人のキョンシーがおり、俺は一人の姿を見て、言葉を失う。


「…………ぁ」


忘れる訳がない、チャイナドレス。そのお団子に化粧。リンリンの祖母、そして、かつて俺の大切だった人。彼女はすっかりキョンシーに変わっており、村人の一人と共に襲い掛かってくる。


俺は反応が遅れ、押し倒され、二人が噛み付こうとするのを必死に抑えた。


「…………くっそがぁぁあぁあああ!」


薬瓶を撃てば、元に戻る。生き返る。

彼女を、取り戻せるかもしれない。だけど、本来は村人の一人に撃ち込まなければいけなかった。


既に死んでいる人間を元に戻すのは、タブーに触れる気がする。


悩み、苦しんでいる時、どこからかアナウンスが流れ、ローグの声が耳に届いた。


「これは嬉しい再会だなぁ。あの火の海の中、喧嘩したきり死んじまったもんなぁぁぁ……!」


「ロォーグゥゥゥゥゥ゛ッ──!!!!」


ダメだ、選べない。選べるわけがない。

俺は怒号を放ち、二人を振り払った。そして、立ち上がり、ハンドガンを握った。


銃口を向けたのは、彼女の方。村人がこちらに近付いてくる中、震えながら引き金に指を掛ける。

蘇ってくるのは、彼女の言葉だ。


『……英雄にも、英雄が必要でしょ? 私がなってあげる』

『……ありがとう、私を助けてくれて。村を、救ってくれて──』


俺の頬を、雫がつたる。歯を食いしばり、目を瞑って、引き金を引いた。


──パァンッ!


発砲音、倒れる音が聞こえる。


「ごめんな……リンリン。ごめんな、チェン」


俺はすぐに目を開けて、すぐそこまで来ていた村人の女を押し倒す。そして、薬瓶を撃ち込み、元の人間に戻した。


  ◇◇


 それから俺は、まだ気絶している村人を抱き上げ、外に出て地下へ向かう。辿り着けば、誰一人欠けておらず、皆笑顔で俺を迎えた。


「よかった……! これで全員だ!」


俺は村人を降ろし、刀を受け取る。ナイフに変形させ、腰に仕舞うと、唐突に揺れが生じた。


「……!? な、なんだ!?」「地震か……!?」


上から、瓦礫が崩れ始める。村人たちは混乱し、すぐに出口へ急ぎ始めた。そんな中、俺は一人立ち尽くす。


脳内で何度も再生される、あの日の光景。俺が救えなかった命たち。俺は、地下から出て、外の景色を見つめた後、言葉を失った。


「…………」


ヘリが村に爆弾を落としていく。あっという間に火の海が完成し、村人たちは絶望している。


「…………またしても、何も救えなかったな。《ヒーロー》──」


ヘリから因縁の声が聞こえ、エリアが降り立つ。


「……リンリンは、生きているのか」


「……さあ、どうだろうな。シーゴに車を出して貰って、今頃向かってきてる頃だろう」


背後を見れば、泣き崩れる村人たち。瓦礫に足が挟まれ、動けない者もいた。


「……《ギルド》の目的は、何なんだ」


「言っただろう? お前を最強兵器として育てる。そのためにも、感情を壊さなければいけない」


そう言うと、エリアは腰から緑に光る注射器を取り出し、構えたあと、俺に走り出す。


俺はロープを使って手から注射器を弾き、エリアの懐に潜り込んで、《グランダ・ブロー》レベル3を使った。が、そこにはエリアはおらず、注射器を手にして俺の頭上にいる。


俺はギリギリで回避して、すぐさま体勢を立て直した。その時、村人の方から、悲鳴が上がる。


視線を移せば、そこには着火したままこちらへ歩く、ローグの姿が。どちらも倒さなければいけない、因縁の相手。救えるか分からない、村人達。


迫り来る決断の中、俺は何かにまたしても背中を押され、気付けば、ローグを吹き飛ばして、村人たちを抱えていた。


「……この状況で、救えると思っているのか!」


エリアの言葉。それに言い返そうとした時、リンリンが、代弁して言い返した。


「ウサギなら救える。だって、《英雄》でしょ──!?」


《英雄》、今度こそ、俺は救えるだろうか。その答えは、すぐに分かる。


俺は抱えた村人たちをまだ火が燃え移っていない隣の村に避難させ、また戻り、抱えて運ぶ。リンリンも、シーゴもそれを手伝ってくれていて、気付けば、全員を避難させられていた。俺一人、あの村に戻って、二人の前に立ち尽くす。


「この火が燃え移るのも、時間の問題。私を倒したところで、お前はこの村を救えない」


エリアがハンドガンを構え、俺に銃口を向けた。ローグも、動物のキョンシーを引き連れて、俺に攻撃を仕掛けようとしている。


「最後の殺し合いだ、《ヒーロー》ォ──!!」


俺はナイフと銃を構え、呼吸を繰り返した。

無線を使い、シーゴに連絡する。


「……近くに井戸がある。そこに爆弾を投げ込んで、村人を連れて逃げろ」


「……了解。お前は、どうなる……?」


そこで無線を切り、襲い掛かってくる二人に俺も走っていく。銃でエリアを撃ち、距離を詰めてローグに斬り掛かる。


「……スイッチ!」


ナイフは刀に。銃はショットガンに変形し、刀でローグの一つの目を貫く。


「っ゛……!」


腹部に痛みが走った。ローグの腹から飛び出た刃が、貫通している。それと同時に、首元に針が刺された。


「……お前は最強兵器として、永遠に私たちに仕えるんだ──!」

「《ヒーロー》! お前は最後まで、何も救えないまま終われぇ──!」


意識が眩む。血の気が吹く。意識が飛びそうだ。それでも、俺は歯を食いしばり、エリアに頭突きを喰らわせて、マスクを破壊する。額から血が流れ、痛みで意識をハッキリさせた。


そして────


俺は武器を捨て、グローブのレバーを外れるまで降ろした。すると、拳の骨がグキグキと抉れ、俺は思いきりローグの顔面に殴りかかる。


「……俺は、《ヒーロー》じゃない。コードネーム《ウサギノ》だ──!」


ローグの顔が潰れ、目玉が全て破裂した。俺はローグを殴り捨てると共に、その場で意識を失った──。


  ◇◇


 火の海の村に、雨が降った。

ウサギノに言われた通り、井戸に爆弾を入れると、水が吹き出し、炎が消える。


時間が建てば、本当に雨が降り始め、焦げ臭い匂いだけが香っていた。


 隣の村に戻ってみれば、意識を失っているエリアと、ウサギノの姿が。村人たちが急いで救助をしてくれて、何とかエリアは意識を取り戻した。が、ウサギノは一向に目覚めないまま。ある一室の重い扉が開かれ、リンリンが部屋に入る。


「シーゴ。ウサギはもう、目覚めないの……?」


「…………分からないな」


俺は幼い少年の顔を見つめ、リンリンに言葉を返す。何度も現場に運んできた中で、唯一生きて、ちゃんと基地まで送り届けられた逸材。そして、かつて、俺たちの村を救ってくれた《英雄》。


確かに最後は救えなかった。が、記憶を失っても尚、記憶を取り戻して、今度は別の村を救った。俺の村の他の奴や、チェンは期待を裏切られたとこいつを恨んでいるかもしれない。それでも、ウサギノは皆の《英雄》だった。


「……私のお婆ちゃんのこと、知ってる?」


「……おう、知ってるよ。いつもこいつに引っ付いては離れなくて、結婚したいだなんて言い出しやがったくらいだ」


リンリンは驚いた表情をしつつ、少し照れ臭そうに笑う。


「お婆ちゃんは気が早すぎるわ。まあ、分からなくもないけど……」


その後、しばらく沈黙が続き、リンリンが俺にお願いをした。


「少し、二人きりにさせてほしい」だそう。俺は部屋を出た後、扉越しに聞こえた言葉を聞いて、思わず涙した。


「……早く、起きなさいよ。私の《英雄》──」


その声は震えを孕んでいて、

報われないわがままだった。二度と目覚めることがないことを知って尚、俺はその場で泣き崩れた。

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『HERO-VILLAGE』 詩羅リン @yossssskei

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