第10話 限界ソングバトル


「えれなのターン、ドローよ!」


 中二っぽい かっこいいポーズをとると、足元の水たまりから、ぷにぷにした水精霊が飛び出してきた。


「……この水精霊カードは……」


 えれなちゃんは勝ち誇った笑顔で。


「ふふふっ。悪いわね、うさぎちゃん。勝たせてもらうわよ」


 ぎゅぅぅっと水精霊を抱きしめると、どんどんと膨れ上がっていき――。


「えれなは【スターモンスター】、精霊王 水クマころんを召喚!」


 巨大な『水色の熊』がステージに降臨した。


【 精霊王 水熊ころん レベル10 属性 水 】


 王冠をかぶり十メートルを超える巨大な熊に、わずかに動揺する。


「す、【スターモンスター】……!」


『思い出す』。

 アイドルコーディネーター あかねちゃんの『言葉』を――。


『うさぎ。アイドルカードバトルにおいて、相手に勝つためには どうしたらいいと思う?』


『それは、相手モンスターをすべて倒して、自分のモンスターで、相手に【攻撃を3回当てる】ことだよね?』


『そう。こちらのモンスターのレベルが上回っていたら、相手モンスターを倒すことができる。そしてモンスターがいなくなって相手に【攻撃を3回当てる】。それがアイドルカードバトルの勝利方法の1つね』


 あかねちゃんは指を一本立てる。


『そしてもう1つ。相手を倒す方法がある。それは【スターモンスター】を倒すこと』


『【スターモンスター】?』


『 スターモンスターというのはね、デッキに1枚しか入れられない特別なモンスターよ。強力なモンスターだけど【弱点】がある。スターモンスターは倒された場合、【無条件で負け】となってしまう』


『じゃあ、引いても すぐには出さないほうがいいの?』


『そう。もし、スターモンスターを引いたら すぐには使わないで、ピンチになった時かチャンスの時まで取っておきなさい……』


 ◆


( ……【スターモンスター】……。このモンスターを倒せればわたしの勝ち……でも…… )


 巨大な水色の熊の存在感に、心がざわついた。


「 精霊王 水熊ころん、攻撃! ダイバーウェットジェット! 」


 大きく息を吸い込み、胸を膨らませると、水流を吐き出した。

 ホログラムの水流により――わたしと月姫かぐやはドバッと飲み込まれた。


 水流が去った後には、月姫かぐやが目を回して倒れ、光の粒子になって周囲に戻ってくる。


「えれなのターンは終了よ」


「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 わたしは息を切らせて全身をガタガタと震わせた。


( ……ホログラム映像の、水流にすぎないのに……… )


( 乗り越えたはずなのに……あのときのことは……… )


 過去の出来事トラウマが蘇り、震えが止まらず、目の前がかすんでいく。


「 うさぎ、笑顔! 」


「 ! 」


 観客席に、カメラを構えた『かぐや』ちゃんの姿が――。


 かぐやちゃん!


 うん、そうだよね!


 わたしは―― !


 光輝いてみせる!


 恐怖に怯える身体を奮い立たせ、かぐやちゃんとお客さんに手を振った。


「みんなぁ、これからわたしのターンが始まるよぉ♪ 全力で挑むから、最後までこの戦いを楽しんでねぇ♪」


 観客席が湧き立ち、わたしは両手を高く上げた。


「わたしのターン、ドローだよ!」

 

 ラビリーズが上空から落ちてきて、胸元で抱きとめる。


「わたしは魔法、『月の降臨』発動!」


 ステージ上に、月の光が降りそそいだ。


「この魔法は、倒されてルームにいる『月姫かぐや』を復活させることができる。おいで、かぐや!」


 月光とともに、月姫かぐやが地上に舞い降りた。


「そしてさらに魔法――『月の従者』。 月姫かぐやがフィールドにいるとき、デッキから『月の従者 うさごん』を召喚できる」

 

 ラビリーズの1体がムクムクと大きくなり、5メートルほどの巨うさぎに変化した。


【 月の従者 うさごん レベル10 属性 光 】


「月の従者 うさごんは、月姫かぐやがいるとき、レベルを2倍することができる」


 さらにムクムクと大きくなっていき、精霊王 水熊ころんと同じ十メートル程まで膨れ上がった。

 うさごんは手のひらに月姫かぐやを乗せ、そのまま頭の上に置いた。


「月の従者 うさごん! 精霊王 水熊ころんに攻撃!」


 重い足どりでどしどしと駆け出した。

 それを向かい打つ、精霊王 水熊ころん。


 レベルはうさごん【12】

 水熊ころん【10】


( このまま攻撃が通ればわたしの勝ちだ……。でも、きっとそう簡単にはいかない…… )


「ふふっ、甘いわね、うさぎちゃん」


 不敵に笑いえれなちゃんは、水精霊を両手に持った。


「魔法――『水の加護』! 精霊王 水クマころんのレベルを5アップさせる」


 水の衣を纏い、精霊王 水熊ころんのレベルは10から15に上昇――。


「わたしも魔法発動です。『月の加護』。同じくレベルを5アップさせます!」


 月の光を浴びてうさごんは、限界レベル15まで上り切った。



 ――バーチャル空間で実況している、ねこにゃんと愛原 さくらは――。


「おーっとにゃ、お互い同じタイプの魔法で、モンスターのレベルを『上限限界15』まで上げたにゃー!」


「通常、同じレベル同士のモンスターがバトルをすれば、お互い倒れルームに送られてしまう。でも、『上限限界15』まで上がったモンスター同士がぶつかり合った場合は……」


「 『 限界ソングバトル 』の始まりにゃあああ♪ 」


『歌』と『踊り』と『カードゲーム』を合わせた複合エンタメ競技【アイドルカードバトル】


 その真骨頂――【限界ソングバトル】が始ろうとしていた。

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