第5話 わたしの誇り


「 は ぁ 〜~ 」


 ぬるま湯のシャワーを全身に浴びながら、大きなため息をこぼす。


「……ぜんぜんダメダメだなぁ……わたし……。どうしたら……愛原 さくらちゃんのように……」


 ――ガチャッ――


「えっ?」


 思い悩むわたしの後ろからドアが開く音がして 振り向くと、


「か、かぐやちゃん……! ど、どうして……」


 服を脱いだ かぐやちゃんがお風呂場に入ってきた。


「……あなたのことが気になって……」


 近づいて来て、うろたえるわたしの顔をじ――っと見つめてきた。


「な、なにかな……?」


「『背中』を見せて……」


「――っ!」


「あなたの背中の『 傷 』を見せて……」


「…………っ」


 バレている。傷のことが……。

 わずかに迷い、観念して壁に手をついた。


「この傷……」


 かぐやちゃんが、右肩甲骨についた5cmほどの消えない傷跡にそっと触れる。


「――うぅっ!」


 ビ ク ン――と、冷たさと、初めて誰かに触られた感触に身震いした。


「……ごめんなさい、あたしのせいで……」


「?」


 何かを囁いたあとかぐやちゃんは――。


「あなたが……この『背中の傷』を気にしてモデルをしていたのはわかってた……。ギコチなさの原因はこの傷でしょ? あなたにとってこの【傷】はなに……?」


「この【傷】は………」


 背中を向けたまま【過去の記憶】を思い返す。



 ―――「……はァ、はァ、はァ……」


 大雨が降り、氾濫する川の中を、わたしは『意識のない1人の少女』を抱きかかえたまま、川辺に向かって必死に泳いだ。


「……あと少しで……」


 川の上流から『尖った木の枝』が、わたし達に迫ってきた。

 かばうように背中を盾にした。


「 う ぐ っ ! 」


 ―――あのあと気絶して、病院で目覚めたわたしに、看護婦さんが教えてくれた。

 あの子のことを……。

 

 かぐやちゃんからの問い掛けに、わたしは真剣に向き合い――。


「 わたしとって、この『傷』は―――」

 

 あの子を助けた――。


「 誇りです 」


 そう強く思えた。


 かぐやちゃんはさらに近づいて来て、正面からわたしのことを優しく抱きしめてきた。

 動揺して全身が真っ赤に染まる。  

 抱きしめたまま耳元で囁く。


「……あなたの名前を、新聞で見たことがある。2年前……溺れている少女を助けたって、小さな記事になってた……」


 だから、わたしのことを知っていたんだ?


「……そのときに付いた傷でしょ?」


 神妙な顔でこくりと。


「……その傷は、あなたが誰かを助けた時についた勲章……。誰かの命を救ったあかし……。恥ずかしいものじゃないわ……」


 かぐやちゃんの言葉に、感動で瞳をうるうるとさせた。


「……見せつける必要はないけど、隠す必要もない……。胸を張ってあなたは、カードアイドルを目指していいの……」


「…………うん」


 こぼれた涙が、抱きしめる かぐやちゃんの肌にぽつぽつと落ちる。


「助けた女の子も、あなたがカードアイドルになるのを楽しみに待っているわ」


 わたしから離れて、満面の笑顔を綺羅めかせる。


「一緒にがんばろう、うさぎ。あたしがあなたを、誰よりも光輝くカードアイドルにしてみせる」

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