一、遺言状

闇の末裔。

暗殺師を生業にする稼業。

その一族が棲む集落「闇壺」。

此処では多くの暗殺師が集う。

彼らは棟梁の死を待ち侘びていた。


棟梁が死ぬ事で、新たな当主を決める。

そして、棟梁が書き留めた遺言状が読まれる。

その内容次第で、誰が棟梁になるか決まるのだ。


「誰が棟梁になるのだ?」

「無論、我らの派閥よ」

「否、我々である」


既に血族の中には派閥が築かれていた。

棟梁の血を流す嫡子達の何れかが次期棟梁だと疑わない。

既に、過半数の棟梁候補が大広間に集う中。

一人の若き男性が遅れて部屋の中に入る。


「無論、俺に決まってんだろ?」


次期棟梁は誰であるのか。

その話題に対して、男性が声を漏らす。

男の名前は枝村しむら冑人かぶと

棟梁の血を流す一族の一人である。

同時に、次期棟梁候補の一人でもあった。

男の隣には白色の着物を身に纏う銀髪の少女が居た。

彼女の恰好は実に特殊であり、布地が少ない。

娼婦と言い換えても良い姿であり、それは枝村冑人による命令で着用をしていた。

目のやり場に困る他の暗殺師達だが、中には卑猥な姿を見て興奮する者もいた。


「良いなぁ、あのメス」

「儂の鞘として使ってやりたいわ」

「だが、枝村様の便女だぞ」

「くそぅ、羨ましい……」


顔を俯きながら恥辱を覚える。

枝村家に仕える宇治家の娘は早々に枝村冑人に仕える事となった。

元服を迎えるよりも早く処女を散らされ、女としての矜持の全てを枝村冑人に奉げた彼女は、毎晩の様に拷問に近い責め苦を受け続けた。

だが、多くの暗殺師はその事に関して苦言を漏らす真似はしない。

暗殺師と呼ばれる職業は、基本的に男性優位であり、男尊女卑が成立した組織だからだ。

顔を俯く彼女に対して、枝村冑人は袴の隙間に手を滑らせた。


「んぁ?!」


彼女の臀部を鷲掴みにする暗殺師。

実力の低い彼女は、暗殺師達の玩具として扱われる。

中指が深く彼女の不浄を突くと、顔を赤くしながら責め苦に耐える事しか出来ない。


「お、止め、下さい……」


女性のか細い声に、枝村冑人は舌打ちをする。


「何が止めろ、だ?お前は俺に命令する程に偉いのか?また、蟲漬けにしてやっても良いんだぞ?」


深く責め立てる枝村冑人の言葉に、涙目を浮かべ顔面を蒼白にする。

蟲漬けとは枝村家が能力を開発する為に行う鍛錬場である。

様々な蟲を部屋の中に密集させ、その肉体を責め続ける行為は生理的嫌悪感を過らせる。

それは嫌だと、首を左右に振る女性に対し、改めて屈服させる枝村冑人は指を引き抜き、中指を彼女の前に向けさせた。


「指が汚れたぞ、早くしろ」


急かされると、彼女は舌を伸ばして中指を舐め始める。

淫靡な水気が弾ける音を聞きながら、其処で漸く棟梁の側近が現れた。

棟梁の側近は軽い挨拶の末に、遺言状を開き内容を確認する、のだが。


「……な、こ、これは」


側近が内容に目を通した際に、早々と怖れを抱きながら権利や財産に関する内容を告げていく。

そして肝心である『闇壺』を運営、全ての権限を持つ者、新たな棟梁の名を、側近は恐る恐ると口にしたのだ。


「あ、新たな棟梁は……かばね漆人しちとと、する」


新たな名が告げられる。

異能を宿す者の群れの中に、しかし、その名の者は此処に居ない。


「馬鹿なッ」

「あの無能の恥晒しがッ?!」

「嘘では無いのか!!」


叫ぶ者達、彼らは棟梁の血筋である子供を蔑んだ。

無能の子供は異能の一族にとって不要な存在。

虐待や拷問に近しい行いをした事もある。

彼らは恐れる、今まで蔑んだ存在が自らの上に立つ事を、報復を恐れていた。


「何かの間違いだ!」

「正式な跡取りは此処に居るだろうが!!」


憤りを覚える者達。

棟梁は複数の子供を産ませた。

優秀な子供に目を付けて擦り寄る。

闇影の王が死んだ後、その次代の王は血筋の者が継ぐ。

故にまだ幼い子供に媚びを売る。

甘い汁を啜る為に、だ。

自らの定めた跡取りが王になれば、当然、自らの地位も向上する、その為に媚びを売り続けた。

その結果……早々に見切りを付けた無能が王に成った。


予想外な事態に狼狽する、遺言状を奪い確認する暗殺師達だが、しかし内容は変わらない……力の無い無能を次期棟梁にする、と言う事のみ。


「そん、そんなッ……馬鹿な、話があるかッ!!」

「し、漆人様を昔、イジメてたの……殺されるッ!!」


大屋敷の中は阿鼻叫喚となる。

様々な派閥の者達は、事実を否応無く理解する。

そして……知った上で、手段を選択する。


「何をしている!早く漆人様をお迎えするのだ!!」

「し、しかし、何処に居るか分かりません」

「早くしろお!他の派閥に奪われるぞお!!」


いち早く、新たな王に媚びを売る者。


「ふざけるな……こんな事」

「許せるか……許して堪るか」

「だが……遺言状は絶対だ」

「……全員が、無能の所在を知らぬ」

「ならば、発見した時に既に死んでいた事にすれば良い」

「そうすれば……遺言状は果たせぬ事となる」

「つまりは」

「殺すのだ……あの無能を棟梁の座に就かす事などさせんッ!!」


憤慨する者。

様々な思惑が巡る最中。


「……はァ?」


枝村冑人は、その遺言状の内容を聞いた末に、憤りを通り越して呆然とし尽くしていた。


「俺では無い、無能が新たな王、だと?……ふざけるなよ、そんな事、許されない」


女を侍らせる枝村冑人は、彼女の胸を強く握り締めながら怒りをぶつける。


「殺してやるよ、その無能を」


こうして―――、「闇壺」の暗殺師達は、一人の男を殺す為に人里を奔走するに至る。

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