頂点の華

翌朝

 日が昇ると早々にリョウマは電鎧腰部の生存箱から常備してる棒状の

非常食と鯖とばの一本を手早く食べ、早々に国土回復事業跡地から離れる事とした。


 帰りの道中、やはり諦めきれずリョウマは昨日倒した巨大伐採機の残骸から

フラクタル等幾つかの目ぼしい部品を取り出そうとしていた。

それを辛抱強く待って居たナディアと四足歩行形態のヒトカリであったが

ヒトカリ犬?は『フン』と小さく音を立てると自らの背中をリョウマに向けていた。

「あ?なんだ手伝ってくれんの?」

ヒトカリ犬は『さぁ乗せろ。』といわんばかりに台状になった自分の背中をズイと近づける。

「なんだお前良いトコある…」と、リョウマがその背中に部品を置こうとして手を離した瞬間、『かかったな馬鹿め!』とばかりにヒトカリ犬は超速で真横にスライドした。

「………」

『ガシャン』、と部品が地面に落ちる音が周囲に響き渡る。

「デビーさんは凄く速く動けるんですねぇ。羨ましい。」

見ていたナディアは目を丸くする。

猟師の周りをヒトカリ犬は主人に構って欲しい本当の犬のように走り回っていた。


 とっつかまえたヒトカリ犬に残骸から漁った部品を無理やり括り付け、

太陽が真上になった頃にようやくリョウマは昨日上陸した浜辺に戻って来た。

 雑木林を抜け視界が開けると、『ひょっとしたら鎮台の軍艦は残っているか』と思っていたリョウマは「やっぱ誰も居ないか」と、慌てて撤収したのであろう鎮台軍が残して逝ったゴミが散らばる砂浜と水平線しか見えない海を見て一人ごちた。

そのまま昨日、金剛丸を駐船させた方角に視線を移すと、ゴミで雑然としている砂浜の一角に幾つもの遮蔽板を無理矢理連結させ、雑木を乗せてカモフラージュした

小屋のような物が見えた。

「なんだアレ?」近づくとどうやらソレは金剛丸を防護する為に有り合わせで作られた小屋のようだった。

『シロウとマキタ大尉の計らいだろう』と、少々大袈裟に作られた小屋を見、面白い気分になった。だが限られた時間と物で余程にしっかりと作られていた保護小屋に『逆に出すのが大変だなコレ…』と、思うのと同時に作ったであろう人間の気持ちが伺えるとリョウマは少し申し訳ない気持ちになったのであった。


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-------- 東京海城 最「頂」部 -----

 現在の東京海城が一体何層あり、どれだけの人間が住んでいるのか、実は余り良く知られていない。日々の拡張だけではなく、地震や嵐や自然災害、人の争いなどで損傷した場合、技術者達が弥縫弥縫で継ぎ接ぎして行った結果もはや全体像を知る者は限られた人間しか居なかった。 航空機を飛ばしても2日もすれば破壊されるこの世界で、そんな東京海城の頂点を知る物は更に限られた人間しか居なかった。


そんな最頂点に広がっているのは、見事に造作された日本庭園である。

更にその日本庭園と並び立つ豪邸は、頂点層自体が人類が持ち得る、ありとあらゆる技術を用いて護られ建てられている。また、信じられない事であるがこの知る人ぞ知る東京海城頂点層は全て『個人所有』であった。

場所は時代の変遷の中『社長宅』『CEOプライベート』『御所』など様々に呼び名を替え、現在は「奥書院」と呼ばれるようになってた。

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「於方様、ドウジマ様をお連れ致しました。」

「ありがとう、お通しして。」

着物の案内人は『於方様』と呼ばれた女性に再び頭を下げるとしずしずと扉を開き、片手をそっと上げ、この場に全く合わない、サングラスをかけた花柄シャツの男に部屋に入るよう促した。

「やぁ、カリンちゃん、どうもお久しぶり」

花柄シャツの男はまるで馴染みの居酒屋に入るような感じでこの尊豪な部屋に入って来た。

「ご存じでしょうけど、一応この奥書院は殿方の出入りはご遠慮して頂いているのよ」

男の非礼を特に咎めるでもなく、見事な黒髪の女性はドウジマに軽く会釈する。

「ああ、そうだったっけ、女の園に入り込んでしまい申し訳ない」

全く悪びれる風も見せず、男は部屋の中央に置かれたソファに勝手に座っていた。

「それで、今日の御用件は一体何かしら」

「どうやら君ら何か見つけたんだろ」

「あら、何処でお聞きしたか存じ上げませんが、一体何の事でしょうか?」

「まーたまた、とぼけちゃって…」

男は何気なく少し後ろを伺いながらサングラスを外して話す

「そう言われましても…私も、もう少しドウジマ様から具体的に言って頂かないと解りませんわ。」

「あー、そうだね。まぁ別に。聞きたかったのは、君がどうするのかな?と思って」

外したサングラスを手でくるくると回しながら男は問いかける

「本当に何の事か解りませんの。解らない事は私もどうお答えしたら良いのか、さっぱり解りませんわ」

「ああそうか、君達もそうなんだろうね。」

「はい」

女性はその完璧な美貌を真っすぐ男に向け返事をする。

「わかった、じゃあ僕はコレでお暇するよ」

「あら、折角お越しいただいたのですから、少しお茶でも如何かしら?」

「生憎と僕は過去の懐古よりも下で飲む昆布茶の方が美味しく思える性分でね」

「………」

「まぁ君も下に来て飲んでみたら?美味しいよ?」

「ええ、私も、もしそういう機会があれば頂戴したいですわ」

男から視線を外し、手袋をした左手で肘をさすりながらカリンは答える。

「存外にそういう日も、もうそう遠くないかもしれないけどね…

「…………」

「まぁいいや、サクラちゃんもそんな怖い顔してると男にモテナイぞ?」

「……………」

「あ、そうそう、先日ちょっと面白い若者と出会ってね。ひょっとしたらサクラちゃんとモテナイ同士気が合うんじゃないかな。」

勝手な男の話しにカリンは少々皮肉交じりに、

「私共の東京海城で楽しい日々を過ごされているようですね、何よりですわ」

引き続き男の顔も見ず、丁寧だが含みを込めて言った。

そんな於方様の皮肉を全く気にするでもなくドウジマが答える

「僕の第二の故郷だからね。じゃあ世間話しはコレくらいにして。女の園のお邪魔虫はホウキで追い出される前に帰らせて貰うよ。」

男のその言葉を聞くと女性が多少苛立たし気に扉に向かって声を出した。

「ドウジマ様のお帰りです」

カリンが声を出すと、自然と扉が開き、着物の女性がうやうやしく頭を下げる。

「じゃあまた今度。」

ドウジマはサングラスを再びかけ直すと、入って来た時と同じように、下層の居酒屋から出るように部屋からでて行った。


ドウジマが退出した後、丁度男が出て行った扉の横の空気が揺らぎ、

一体の白い電鎧が現れる。

白い電鎧は「姉さん」とだけ短く声をかけたが、カリンは手袋をした左手を軽く上げ、白い電鎧を制して言った。

「放っておきなさい、結局は世界から逃げた、ただの哀れな男よ」



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「列島崩械」-東京海城編- @TOMATOMATON

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