夢の跡

 海城鎮台軍の侍達と若い猟師の一隊は『国土回復事業跡地』、

かつての人類の繁栄を取り戻そうと夢見た人々の忘れ去られた事業地に辿り付いていた。

『国土を取り□□成功□□□!!』

敷地の入り口になるのであろうか、鬱蒼と茂った木の間に朽ち果てた看板のような物が見える。

「俺が天眼で見たのはコレだな」イトウが小さくつぶやく。


看板の前を通り過ぎ、今では何時でも撃てるように銃を持った案内人が歩みを止める。

「間違いない、ココ。」思い出すように言うリョウマの視線の先を侍達が見ると、

確かに旧都にあるような崩壊前のコンクリートの遺跡ではない、海城の初期市街のような蔦や植物に塗れたセラミック複合外壁の建物群が建ち並んでいた。


遠目では覆われた植物で山に同化していて解らなかったが、幾つかの建物は複数階はありそうなそれなりの規模をしている。

『前線基地のような物を想像していたのだが、コレは想像以上に規模が大きいな。』

大尉が目の前の建築物を見ながら感想を述べる。


「これ全部、今から調べるのは無理ではないですか?」

イトウも建物群を見上げながら大尉に問いかける。

「だろうな。まぁ時間がある間は調査をしよう。」

「日没までの時間と、帰還にかかる時間を考えると1時間ほどしかありませんが」

「まぁ良い、二手に分かれよう。フクダとシマダは右の方向、私とイトウは左を調べる。ここから先は完全に我々の仕事だ。リョウマ君はタカギと此処で待機しててくれ。」

「どうせなら俺はあの上に居るよ」リョウマは何の建物であったのであろうか、

皆で話している小脇に建てられた小さな2階建ての建物の上を指さした。

「それで構わんよ。もし時間が過ぎても我々が戻って来なかった場合、

君らはそのまま戻れ」

「隊長…」タカギが心配そうに言う。

「何、心配するな。化物にやられる前にソレ連れて此処に戻ってくるさ。」

「それはソレで大変そうですが…w」大尉の冗談に心配そうだったタカギも答える。

「シマダの波影に記録装置を付けろ。後で上の連中に疑われるのも嫌だからな。」

言われたフクダが腰の多目的箱から小さなユニットを取り出すと、シマダの頭殻に取り付けた。


『では行くぞ』


---

小さな建物の屋上に着いたリョウマは、そのまま建物の縁付近に腹ばいになって銃を構える。

そのままかつての人々の夢の跡であろう跡地を警戒していると、結局タカギも建物の屋上に上って来た。

「警戒してくれてるのか。律儀な奴だな君は。」

「まぁやる事もないし。普段はコレばかりやってるから変わらないよ。」

リョウマが構えてる別の方向に架脚を展開し雷轟を据えるとタカギが話しかけてくる。

「そういやお前さん、この辺りで一人で猟してるんだって?」

「そうだけど」

「さっきのあんなモンが出て来るようなトコで、良く一人で狩りなんて出来るな」

「アレは特別だよ。流石にそんなに一杯居るような物じゃない」

「そうか。」

「まぁ出来たら帰りにアレの部品持って帰りたいけど」

「ぶっ…まだ言ってるのか。」思わす吹き出しタカギが答える。

「戻ったら上から金貰えるんじゃないのか?」

「ああ、話しは聞いたけど。今回のは友達の頼みだから。」

「浜に残ってる探題官か。珍しい組み合わせだな。」

「腐れ縁って奴。子供の頃はずっと一緒だったし」

「そうか…気を悪くしないで欲しいんだが、一門出の俺としちゃ羨ましいよ」

「???」

言葉の真意が解らずリョウマは返答に詰まる。

「一門だ侍だと言ってもな、その実中身は見栄と嫉妬の集まりみたいなモンだ」

「子供の頃から他所の一門、身内の誰それ。人を疑う心だけが養われる。」

「そうなんだ」

リョウマは意外なこの下級一門出らしい侍の独白に相槌を打つ。

「マキタ大尉は珍しいタイプだよ。だから俺も好きなんだが」

「やっぱりそうなんだ」

「まぁ『吉良』と言えば名門の中の名門だしな。俺みたいな下級一門と違って

周囲に気を遣わなくても良いからかもしれないが。」


そんな会話をしている内、猟師は自分が侍が嫌いな事は中々変わらないだろうが、

少なくともこの隊の人達は好きになれそうな事に気付いていた。


------

それから何事も無く、小一時間ほど経つと建物の影からシマダとフクダが戻って来た。それに続いて後ろには大尉とイトウの姿も見える。

「戻ってきた」リョウマがそう言うと、

「降りる」と短く言ってタカギは屋上から降り仲間を迎えに行った。

「無事でしたか、大尉」

「拍子抜けって奴だな。回ってみたが幾つか風化を免れている遺骨がある以外、

コレといって特に何も無い。」

「そうですか」タカギは安心半ば期待外れ半ば的な反応を返す。

「シマダ、そっちはどうだった」大尉が先に戻り波影の頭殻を外し、直接口で水を飲んで居るシマダに尋ねる。

「こっちも殆ど一緒でしたよ。途中、何か居てフクダがビビりまくりましたがw」

「おい」フクダが抗議とばかりにシマダの身体を叩く

「何が居たんだ?」

「熊ですよ熊。でもこっちの姿見たらさっさと逃げちまいました。」

「それはそれで危険な獣ではあるが。まぁこの恰好だと我々も機械と同じか。」

「でしょうね。森の中~熊さんに~出会った、以外には特に何もありません。」

シマダがおどけて報告をする。

「金属動体感知器も一応バラ撒いて来たが…イトウ、何か反応あるか?」

「こちらも一向に何も。もぬけの空って奴ですかね此処は。まぁ当たり前ですが。」

「そういえば彼は?」

「ずっとあの建物の上に。律儀な奴ですよ本当。」

「そうか、おいリョウマ君!結局此処には何も無さそうだ!少し休憩したら帰るとしよう!」大きな声で侍大尉が猟師に呼び掛ける。

屋上から手信号で『了解』を伝えると、リョウマは照準から目を外し、自分の頭殻を上げ一息を付く。

下を覗き込むと侍の連中は帰路の算段を話しているようであった。


それを見ながらおもむろにリョウマは立ち上がると、ぶっきら棒に防護外套の懐に手を突っ込み東京海城名物『鯖とば』を取り出し齧り始めた。


「あの…そのように塩分濃度が高い物を食べてると健康に悪いですよ?」

「猟師にはコレぐらいが丁度いい。塩気が効いてるし。」

猟師には無駄な質問にそう答え振り返ると、ソコには一人の少女が立っていた。

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