機猟師と獲物

そのまま伊豆の奥に向かうべく山中を歩く侍達と猟師ではあったが、

隊員に気を引き締める様に言った大尉の肩を空かすように、特に問題も無く

もう奥伊豆にさしかかる山中を順調に進んで居た。

「ココが誰もが忌み嫌う地域とか何か信じられないですね」

「確かに、コレだけ何も無ければそうも思いたくなるが…」

「そう思うなら此処に実際に住んでみるか?」

「猟師君はどうだ、もう奥伊豆に住んでしまうか」

「絶対無理だね。今日は運が良いけど出る時は出るから。」


シマダのふざけた質問に素っ気も無い当たり前の答えで返していると、

タカギという隊員がかつての任務をシマダに指摘をする。

「お前も前に飯岡でやっただろ。高熱の何か飛ばしてきたあのデカブツ」

「あったなぁ。結構離れて避けたのに電鎧の外装が一瞬で溶けたな」

「ああいうのは勘弁して欲しいわ」

恐らく、以前に聞いた獲物の事だと思い、Aも会話に混ざる。

「まぁそういうの居たら大体回りも酷い事になってるから。」

「猟師の連中ってああいうのが居たらどうしてるんだ?まぁ狩るんだろうけど。」

「狩れそうなら狩るし、無理だと思ったら逃げるだけだよ。」

「中途半端が一番良く無いか。」


そのまま歩き続け、小休止を取ると、案内人は大尉に尋ねた

「このままもう少し真っすぐに登れば俺が例の奴を見た場所に着くけど」

「そうか、意外と早かったな。」

「色々あったから俺も思い出したんだけど、多分俺が見てた道みたいな所って」

何だっけ、昔の人が住もうとしていた所?多分あそこに続いてた道の名残だと思うんだ。」

「もしかして『国土回復事業跡地』か?」

「ああ、何かそういう奴。骨とかあって気持ち悪いけど、前に行った時は特に何も無かったよ。」

「?!君は跡地に行った事があるのか?」

「大昔に親爺に連れられて行った事あるよ」

「君の父親も猟師だったと言ってたな。しかし度し難い。」

「多分こっちの方角を登ればあの辺りも見える場所があった筈なんだよね」

「本当か」

「少し開けた高台みたいな所があって、そこからならあの辺りを見渡せた筈」

「成程、そこから跡地に向かうのは?」

「その高台から20m程降りたらそのまま真っすぐ行けると思うけど、鋼線とか持って来てる?」

『フクダ、何Mだ?』

フクダと呼ばれた隊員が水筒から口を離して応える。

『ウチのは100まで行けますよ。今日は鎧も影波で軽いし大丈夫でしょう。』

「よし解った。少々予定変更だ。回復事業跡地に向かう。」

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小休止の後、更にしばらく山を登って行くと、確かに山が少しなだらかになり、高台の様になっている場所に出て来た。

「ココか」

「木で多少見難いだろうけど、この先からあの辺りを見渡せた筈だよ」

確かにそのまま進むと今度は急に高台が途切れ、崖とそこから木々の間に見える山合いの盆地のような場所に、人工物だったらしきものが密集しているのが見えた。

『イトウ!お前の天眼のスコープで何か見えるか?』

イトウは隊で一人だけ持っている長身の大型狙撃銃を盆地に向け暫く観察する。

「特には何も見えませんが…恐らく『成功』?という文字の看板が見えます」

「恐らく間違いない、回復事業跡地だな。」

「あそこまで行く?俺も一度しか行った事は無いけど。」

「ココまで来たからにはな。実は上からは調査が可能なら向かえとは言われている」

「隊長、そういう事は最初に言っておいて下さいよ。」

シマダが不満気に反応する。

「何処にあったかなんて上の連中ですらもうロクに覚えてないんだよ。」

「ひでぇ話しだ…」

「見つけてしまった以上、調べない訳にも行くまい」

「了解です」

「良し、このまま降りて跡地に向かうぞ、イトウは此処で皆の降下を援護しろ」

「じゃあ俺も降りるよ」

「降りるだけなら君の案内は必要は無い。今回は我々が先行する。」

「いや別に…」

「出来たら君もイトウと一緒に周囲の警戒をしてくれ」

「まぁそう言うのなら…」

「降下順はシマダ、私、タカギ。イトウと案内人は降下地点の警戒、フクダは二人の後ろで最後だ。」

「了解」「了解」「了解」

「まーた俺が先頭ですか」シマダぼやく中、フクダが手早く杭を地面に叩き付ける。


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鋼線の用意が整い、シマダが降りる準備を進めている中、機猟師は肩に担いだ愛銃を取り出し構えると、骨電鎧の上に纏った防護外套の中に腕を伸ばし、幾つかの弾体を取り出して肩の弾入れに固定していた。

そんなリョウマの様子を見ながら彼が持つ銃を見てイトウが独り言のように言う。

『フローティングレールの本体に先端のガイドレールは固定式、半防護のレールガードに銃床は木製、更に全体に電探避けの有機ネットカモか』

『何?』

肩に弾体を止めて居た手を止め、リョウマがイトウに尋ねる

「いや、その銃。良く見りゃ何か凄いと思ってね。元は『三式クロスジ』なのかな。」

「良く解るね。」

「それも親爺さんの銃?」

「親爺は陸で死んだからそういうのは全く無い。」

「そうなのか。すまない。」

「でも親爺に買って貰った物だから。」

「遺体は見つからず?」

「猟師は陸で死ぬ物だから。別に。」

「そうか。でも俺達侍も似たような物だな。」

イトウの答えが少し意外な物だったので、リョウマは自分が侍達に多少の

興味を持ち始めた事を否定する事ができなかった。

考えてみれば当り前だが、一門や侍と言った連中の全員が、海城の中で下層の人間を見下し、何かあれば拳銃を振りかざすような人間だけでは無いと思ったのだった。


 大尉の指示通り、最初にシマダが降り、そのまま如才なく降下地点の周囲を警戒し、シマダの次に大尉も降下しそれぞれ左右に分かれ次のタカギの降下を待つ。

照準器越しにソレを見ていたリョウマは改めて奥伊豆の森に銃を向けると不信な感覚を覚えた。一瞬の違和感が、風と違う方向に揺れている木の枝だと気づいた時にはもう猟師は声に出していた『多分何か居る!』イトウがすぐに答える『何処だ?』言いながらイトウも違和感の原因に気づいたようだった。 降りていたタカギが崖の出っ張りに当たり『おっと』と言った時、その声に釣られシマダと大尉が後方上空に視線を映した瞬間である。

「真ん前!」

「隊長!正面だ!」狙撃猟師と狙撃侍の大きな声が木魂した瞬間

『ズィィィィィギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!』とその声も容易くかき消す金属の轟音が周囲に響き渡る。

轟音に驚いた鳥達が飛び立ち周囲の木々が騒めく中、大尉とシマダは正面の藪に向かい軍用レールライフル『轟雷』の引金を引く。

が、『キカカカ』という聞き慣れぬ音がすると藪の地面自体が盛り上がり、

その下から丸ノコをただ単純に大型にしたような巨大な回転金属板が現れた。

『何だコイツは?!』シマダと大尉は更に左右に散り、巨大丸ノコに向かい轟雷の引金を引くが、多少の損傷を与えたのみで止まる気配などは一向に無い。

そのまま巨大丸ノコは降りようとしていたタカギの方に向かい、済んでの所で崖を蹴り躱したタカギであったが、降下していた鋼線を切られそのまま何度か崖にぶつかりながら地面に叩き付けられた。大尉がタカギの安否を確認しようとすると、

『ガツン』と大きな音がした後、巨大丸ノコの回転が止まっていた。良く見ると回転した丸ノコの中心部分が真っ赤になり燃え溶けている。

『まだある。行く。』「おい待て」

イトウの声を無視し、リョウマは銃のクリアボルトを引きレールを浄磁すると、鮮やかに次弾を装填し、藪の奥を狙ったまま崖を飛び降りていた。

良く見ると巨大丸ノコの元からは金属棒が伸びており、それに劣化したケーブルが蔦のように纏わり付いている。リョウマは崖に骨電鎧の足底を擦り付けながら金属棒が出ている付近を狙い2発目を放った。タカギの確認をシマダに任せ大尉も更に藪の中に制圧射撃を加えるが、周りの木々をなぎ倒し藪から現れたのは先程と同じ巨大な丸ノコと、それにつながる異形の更に巨大な機械であった。


ソレは崖から降りて来る猟師に気付いたようで、表示器と思しき部分が一瞬明滅すると本体部から巨大丸ノコより幾分小さな円盤を幾つも射出した。

リョウマは片足を少し崖から浮かし滑り落ちる軌道を変えてコレを避けると、

落下しながら先程小型丸ノコが射出された付近に向け正確に銃を放つ。

『ジィン』という音がし、小型丸ノコ射出口は溶けて落ち、次を発射しようとしたのであろうか、まるで血を吐くように熱で溶解した金属をソレは吐き出した。

再び『ギィィィィィィン』と轟音が鳴り響きソレは今度は巨大丸ノコを振り回し始め、

触れる木々や地面をその圧倒的な質量と回転速度で切り刻み始めていた。


『効率求めて馬鹿デカくなった奴か。』Aは独り言を言いながら更に銃に弾体を装填すると巨大丸ノコが付いていてるソレの腕の根本に一瞬で狙いを定め撃ち放つ。

左の一本が根本から溶け飛び、腕と共に地面に落ちた巨大丸ノコは斜めの状態のまま回転力で飛び跳ね、地面も崖をも切り裂き危うくタカギまで真っ二つにされそうになる。シマダがタカギの身体を抱え躱すと大尉は先程穿たれた射出口に向け轟雷の引金を引く、穿たれた箇所が更にボロボロとなり、更に崖上からのイトウの狙撃も加わり侍達の銃撃でソレの頭部はほぼ半壊したような状態となった。ソレの動きは多少緩慢になったが、残された右の巨大丸ノコを最後の狂騒のように周囲構わず振り回し、その金属板の嵐が吹き荒れる度に、周囲の木々も何もかもが斬り倒されていった。

全てを切り裂く巨大円盤を振り回しながら猟師に近づいてくるソレは正に、ただ暴力的な質量とエネルギーの塊であったが猟師は冷静に残された右腕部分に狙いを澄ますと再び銃を放ち、最後の狂騒を叩き落とした。更に素早く次弾を装填すると最後にボロボロになった胴体部に最後の弾を撃ち込む。『ボン』というくぐもった内部での破裂音を最後にソレは活動を停止した。

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タカギはイトウに頭殻を外され、頭部の応急処置をされながら

「申し訳ありません、隊長。」と大尉に謝罪した。

「大したケガでなくて何よりだ。私も少し油断してしまっていたようだ。」

「いきなり出てきましたね。」シマダの方も活動を停止した異形の機械の残骸を見ながら話した。

「こういうの珍しいけどね。何か待ち伏せてたような感じだ。」

案内人の言葉に大尉が声をかける。

「確かに…しかし助かった。流石は機猟師だな。」

「こんな近場まで来て気付かなかったんだから駄目だね。俺の失敗。」

意外にも少々憮然とした態度のリョウマに更に感謝を述べながら大尉は先程の疑問を問い質した。

「待ち伏せとは?」

「コレだけの大きさの機械だったら、もっと周囲に何かやってる筈なんだよね」

「そういやさっき言ってたな」

「連中って基本的に目的自体はあるんだよ。多分コイツなら「木を斬れ」とかね。」

「成程、それならもっと周囲の木が斬られたりしていないと変だ…と?」

「そういう事。まぁ大分古い奴みたいだったから、木が育つ前から居たかもしれないけど。」

「しかし、君は以前に一度、父親とココに来たのだろう?

周囲の木々はどう見ても恐らく亡くなった君の父親よりも年上だと思うぞ。」

「あー。確かに。」

「まぁ起動条件が何かも我々には解らないので結局は解りませんよ」

フクダが忌々しそうに残骸を蹴り飛ばしながら言う。

「本当ならアレ持って帰りたいんだけど。まぁまぁ高く売れそう。」

先程の戦闘から即座にそのような生活感のある言葉を言うリョウマに大尉は思わず笑いそうになった。


「とにかくだ、タカギの処置が終わったら跡地に向かう。今度こそ本当に油断するなよ?」大尉自身も自分に言い聞かせるように言うと一隊は国土回復事業跡地に向かって行った。


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暗闇の中、赤い光点が少し明滅する。

「活動停止信号を受信」

「?」

「また確率を失敗」

「???」

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