パーシャルショット
木村玄
第1話
25度の焼酎。
氷の入ったグラスで一口。
苦い。
薬味のような味。
喉が燃える。
でも、冷たい。
喉は冷えていた。
氷はまだ溶けていないのに。
一分すると
少し酔いが回る音がした。
そう、私はお酒が苦手だ。
理由は、ただ一つ。
弱いだけ。
多分、それは遺伝である。
父からの。
父はいつも顔が赤い。
日焼けか酔いか
分からないぐらいに。
たった5%のハイボールで
真赤になる。
私も同じように。
まあ、呂律は回るし、
落ち着いてもいる。
記憶は曖昧になっているが。
いつも酔いを回して、
眠りにつく。
実際には
酔っているかは分からない。
ただ、
酔っているかもという不安が
私の体に
酔いを回す。
明日には
忘れてしまっても。と。
君は、
珈琲を淹れていた。
ドリップで。
11gの豆を
フィルターに乗せている。
豆の匂いが
深く飛んでいる。
お湯が沸いた音がした。
ポットでなく、
薬缶で。
取手を雑巾で掴み、
注いでいる。
雨音のように
一滴ずつ垂れている。
その横で
私は酔いが込み上げる。
視界がぼやけ、
君が宙に浮いている。
美しかった。
ただ、美しかった。
あの日にいなくなった
女のように。
体は熱くなり、
服を脱ぎ出した。
今を抜け出したくなかった。
恐ろしかった。
明日になると
全部忘れてしまう。
そんな気がした。
予感があった。
私は、慌てて、
取り出した。
冷凍庫から
パーシャルショットの焼酎を。
そして
グラス1杯分を
そのまま飲み込んだ。
息を呑む。
熱くなった体が冷えて、
より熱くなる。
瞼を閉じて
開いた時、
宙に浮いてた君が
笑顔になっていた。
そんな気がした。
そうであって欲しかった。
君はいなくなった。
時計を見て、
寝起きのまま、
外へ飛び出した。
愛に見える雲を追いかけるように。
パーシャルショット 木村玄 @kimumu14
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます