第5話 宝石
午前七時。
控えめなノックのあと、扉が少しだけ開いた。
フードを深くかぶった少女が、一人。
列の最後に静かに並び、
視線を上げずに棚を見る。
「……コッペパンを、一つ」
「二十銅貨です」
少女は、袋を開き、
掌に乗せた宝石を差し出した。
淡い光を帯びた、親指ほどの石。
「お客さま……お釣りがありません」
私は、宝石を押し戻した。
少女は困った顔をし、
今度は髪飾りを外す。
細工の細かい金の留め具。
「それも高価すぎます」
少女は店内を見回した。
そして、黒革のジャケットの男の前に立つ。
「……あの、少しでいいので、お金を貸していただけませんか」
男は、メロンパンを手にしたまま固まった。
灰色のコートの紳士が、駆け寄る。
「待ちなさい」
紳士は、慌てた様子で銅貨を置いた。
「私が払おう」
「ありがとうございます……」
少女は深く頭を下げた。
黒革の男は、ニヤニヤ笑っている。
「もう少しで契約成立だったな」
紳士は、何も言わずに咳払いをした。
パンを渡すと、少女は大事そうに抱え、
小さく会釈して店を出ていった。
護衛の兵士の姿が見えた。
「では、次の方」
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