第3話 魔族

午前七時。

列の先頭に、小柄な魔族が立っている。


パンの棚を見て、指が止まる。

ぬの袋を開き、銅貨を並べ、数える。

一枚足りない。


魔族は、何も言わずに袋を閉じた。

列から一歩、下がる。


「どうしました」


「……足りない」


それだけ言って、踵を返そうとする。


「大丈夫です」


私は、焼き上がったパンを紙に包んだ。


「お代はいりません。どうぞ」


魔族は、瞬きをした。

それから、何度も頷いた。


「……ありがとう」


数日後。


黒革のジャケットの男が来る。


私は帳簿を開いた。


「では、こちらを」


男の前に置く。


「……これは」


「ツケです」


男は、びっしりと書き込まれた名前と、パンの個数を眺めた。


「全部、魔族の分です。あなたの配下でしょう」


沈黙。


「……魔族ってやつは」


彼は、財布を開けた。

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