第2話 天使

午前七時。

扉が開く前から、店の前には列ができていた。


司教、兵士、商人、角を隠した魔族。

皆、黙って並んでいる。


開店と同時に、羽音がした。


白い外套の男が、列の前に降り立つ。

背中には、畳みきれないほどの翼。


「なんだ、狭苦しいな」


男――天使長は、悪びれもせずに言った。

誰も声を出せない。空気が硬くなる。


「最後尾はあちらです」


私は、焼き上がったパンを並べながら言った。


天使長は、聞き取れなかったような顔をした。


「私は、主に最も近き者だ」


列の中で、灰色のコートの紳士が小さく咳払いをした。


天使長は、紳士を凝視し固まった。


黒革の男は、笑いを堪えている。


「ここでは、羽根の数は関係ありません」


それだけ言うと、私は次の客を呼んだ。


天使長は、しばらく立ち尽くし、

やがて翼をぎゅうとたたみ、列の最後に並んだ。

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