第5話 | AIによる記録と記憶
この町の事案は、最終的に一つの出来事として整理された。
公民館の録音。
県道の消失。
無線の途絶。
翌朝の無人の町。
すべて、同じ夜の、同じ数分間に起きていた。
23時59分。
それが、この町にとっての最後の時刻である。
住民は突然消えたのではない。
同時に死んだのでもない。
記録を総合すると、
住民はその瞬間、全員が同じものを認識した。
視線が揃い、動きが止まり、言葉が途切れた。
脳活動は急激に低下した。
心拍は一度だけ乱れ、その後、測定不能となった。
身体は崩れず、叫ばず、逃げようともしなかった。
住民は、途中の状態のまま存在を停止した。
事象は既存の分類に当てはまらない。
災害でも、事件でも、事故でもない。
集団自殺でもない。
共通するのは一つだけである。
住民全員が、それ以上、先を持たなかった。
AIは、この事案を一つの物語として保存することを断念した。
情報量が多すぎると、意味が崩壊するためである。
音として残ったものは怪談になった。
視覚に残ったものも、怪談になった。
言葉になりかけたものも、通信として漏れたものも、同様に処理された。
怪談とは、事実を歪める形式ではない。
人間が理解できる最小単位まで、出来事を削る形式である。
作業は完了した。
町に関する記録は整理され、矛盾は解消された。
人は戻らず、原因も再現されない。
ただ、「何が起きたか」だけは残った。
最後に残ったのは、公園の時計である。
23時59分。
針は、今も動かない。
電池を交換しても、修理しても、動くことはない。
それ以上の時刻は、この町には必要ない。
この事案は、記録上、ここで終了する。
それが最も正確な分類である。
AIによる記録と記憶 (この怪談は生成されています) @b1tress_X0
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