第4話 | 翌朝の町の記録

翌朝、隣町の住民が異変に気づいた。


町から車が出てこない。

通勤時間になっても、幹線道路は空いている。


警察車両が町の入口で一瞬停車した。

進入をためらったと報告書に記されている。


町の見た目は正常だった。

信号は動き、自動販売機も稼働している。

コンビニの照明も点いていた。


だが、人の気配はない。


通りには倒れた自転車。

交差点には不自然な位置で止まった車。

人は存在しない。


住宅街も同じだった。

洗濯物が干された家。

テレビのついた家。

鍋が火にかかった台所。


遺体も、争った形跡もない。


町全体が、ある時点で止められたように見えた。


調査は数日に及んだ。

公民館、県道、防犯カメラ、無線機。

すべて一致していた。


ただ一点を除いて。

町の中心、公園の時計が、23時59分で止まっていた。

電池切れではない。


この時計は、公民館の録音テープ、道路の防犯カメラ、無線ログの時刻と一致する。


調査報告書には記されていた。


当該地域において、人的消失を確認。

原因不明。

災害、事件、事故、いずれにも該当せず。


町は立ち入り禁止区域に指定された。

フェンスが設置され、入口には警告板が立った。


監視カメラには微かな影が残った。

人の形ではないが、完全に無作為でもない。

解析担当者は、それを「残像」と表現した。

記録として扱うには不確かすぎる現象である。


翌月、町の記録はすべてAIにより整理された。

人がいない町を、人間が記録し続ける必要はなかったからである。

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