第3話 | 無線記録の怪談
町には常駐の消防署がなかった。
夜間の緊急対応は、消防団と警察が無線で連携する体制である。
最初の無線は、23時52分に入った。
「人が倒れている」
町の中心部からの曖昧な通報だった。
消防団が出動した。
数分後、別の無線が入る。
「こっちにも人がいる」
住宅街。
倒れているかどうかは不明である。
その後も無線は途切れなかった。
公園、交差点、神社、学校。
すべての通報に共通することがあった。
誰も倒れていない。
現場に到着した消防団員の証言である。
人は立ったまま、動かない。
呼びかけても反応しない。
目も閉じていない。
23時58分、無線の内容が変わった。
「……音がしない」
通常なら、遠くの車や風の音があるはずである。
だが、何も聞こえなかった。
複数の無線が重なり、雑音が走った。
その後、通信は途切れた。
最後に残っている記録は、23時59分59秒である。
消防団員の声が、息を詰めたように残っていた。
翌朝、町に人はいなかった。
倒れている人も、救急搬送の記録もない。
無線機だけが残った。
中には微かな声の波形が重なっていた。
言葉にはならない。
この無線記録も、怪談として扱われた。
通報した人物が、誰一人として確認できなかったからである。
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