第2話 | 止まった道路の怪談

その道路は、町の中心から少し離れた県道だった。


夜になると交通量は少なく、街灯もまばらである。

地元の人間しか通らない場所だった。


異変が起きたのは、深夜零時の直前である。


最初に通報したのは、後続車の運転手だった。

前を走っていた車が、理由もなく減速し、

道路の真ん中で止まった。


ハザードは点いていない。

エンジン音は聞こえる。


クラクションを鳴らしても、反応はなかった。


後続の車も止まり、短い区間に数台の車が連なった。


運転席の人物は、ハンドルを握ったまま、真正面を見ていた。

瞬きも、動きもない。

助手席も同様である。


視線の先には、何もなかった。


道路はまっすぐで、街灯も途切れていない。

障害物も人影もない。


全員が、同じ方向を見ていた。


数分後、先頭の車が音もなく消えた。

衝突音もエンジン停止音もない。

煙もない。


前から一台ずつ、数秒の間隔を置いて消えた。


最後に残った車の運転手は、クラクションを鳴らし続けたが、

その音も途中で途切れた。


通報を受けて駆けつけた警察が到着した時、道路には何もなかった。


ブレーキ痕も破片もない。

車も、人も、いない。


ただ、防犯カメラには映像が残っていた。

消える直前、全員がわずかに顔を上げている。


時刻表示は、23時59分58秒で止まっていた。

それ以降、映像には何も映らない。


道路も街灯も正常である。

だが、車も人も戻らなかった。


この出来事も怪談として処理された。

失踪した人数が、この夜に町にいた人数と合わなかったためである。

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