第7話 京都なのにラーメン、でも悪くない
午後いっぱい嵐山を歩き回り、気づけば空は、夕暮れの気配をまとい始めていた。
電車に乗り込むころには、全員がそれなりに疲れを感じていて、シートに腰を下ろすと、結菜が雅の肩にもたれかかる。
「……歩きすぎた」
「ですね。足、もう限界です」
雅も特に嫌がる様子もなく、そのまま結菜に体重を預ける。
しばらくすると、二人が静かになる。
かすかに揺れる車内に、並んだ頭。規則的な呼吸。
(……寝てる)
その様子を見て、紗季は、思わず頬が緩む。
無邪気で、遠慮がなくて――そういうところが、結菜らしい。
向かいの席では、詩が背筋を伸ばしたまま、身じろぎもせず座っていた。
(……私も、雅ちゃんみたいに)
そんな考えが、ふと胸に浮かぶ。
紗季もまた、悠斗の右隣で、同じようなことを思っていた。
ほんの少し体を傾けるだけで、触れてしまう距離。
悠斗の肩は、すぐそこにある。
けれど、意識した途端に、急に遠くに感じられた。
⸻
烏丸の駅に着いた瞬間、結菜がぱちりと目を開ける。
「ラーメン食べたい」
「京都でラーメン?」
悠斗が、思わず聞き返した。
「京都は、実はラーメンが有名で」
そう言いながら、詩は手にしていたスマートフォンの画面へ視線を落とす。
「このあたりにも、評判のいいお店があるみたいです」
四条の大通りから数本上がり、人通りの落ち着いた通りへ入ると、目的の店はすぐに見つかった。
幸い行列はなく、そのまま暖簾をくぐる。出汁の香りがふわりと広がる店内は、すでに七割ほどの席が埋まっていた。
運ばれてきたのは、そばのような風味をもつ細めの特製麺と、煮干しをきかせた鶏魚介のスープ。器の縁には、刻み海苔と柚子の皮が添えられている。
悠斗は箸を取り、数本の麺をすくった。冷水でしっかり締められた麺をつけ汁に沈め、軽く絡めてから口に運ぶ。
噛んだ瞬間、小麦の甘みがふわりと広がる。続いて、煮干しの旨みと鶏のコクが絡み合い、口の中いっぱいに満ちていく。
「……うまい」
悠斗が、噛みしめるように呟く。
京都でラーメンも、悪くない。
そんなことを思う。
その隣では、結菜と雅があっという間に一杯目を平らげ、空になった器をカウンターへ戻して、早くも二杯目を頼もうとしていた。
紗季と詩は、最初の一口を口に運ぼうとした姿勢のまま、その光景を、ただ唖然と眺めていた。
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