第5話 双子じゃないけど、双子みたい

「せっかくだから、着物、着ようよ!」


「せっかく京都に来たので、着物、着てみませんか?」


結菜と詩の声が、ぴたりと重なる。


紗季は少しだけ迷ったものの、それを拒む理由は見つからず、やがて、小さく頷いた。


「いいですね」


雅も、楽しそうに頷いた。


「じゃ、決まり! 紗季と雅ちゃんは、双子コーデね」


「……え?」


紗季が、思わず眉をひそめる。



結菜が選んだのは、薄桜色うすざくらいろの生地に、風に舞う桜の花びらがあわやかに散りばめられた、春らしい一枚だった。帯も同系色でまとめ、髪の結い方までそっくりに仕上げた。


鏡の前に並んだ二人を見て、詩が、小さく息を呑んだ。


「……見分け、つかない」


結菜は、満足そうに頷く。


「うん、完璧」


黙って並んで立っていると、双子のように見えた。

ただ——


雅は、一歩前に出て、感想を求めるように皆を見る。

紗季は、ほんの少し身を引きながら、そっと悠斗だけに視線を向ける。


「ねえねえ、悠斗」


結菜が楽しそうに声をかける。


「どっちが紗季?」


「こっち」


迷いはなかった。


「え、早くない?」


結菜が目を丸くする。


「……紗季は、紗季」


悠斗は、当然みたいに言う。


紗季は、心の中でそっと息をついた。外れるかもしれない、と一瞬でも思ってしまった自分が、恥ずかしかった。



嵐山は、どこか心地よい賑わいに包まれていた。


竹林を抜ける風、川面にきらめく光、遠くから届く人の声。二人が並んで立っているだけで、行き交う人たちの視線が、いつの間にかそこへ引き寄せられていく。淡い薄桜色の装いは、嵐山の景色に、はじめからそこにあったかのように溶け込んでいた。


「きれい……」


紗季が、思わず足を止める。


川沿いに続く桜並木は、ちょうど見頃を迎えていた。


満開の枝先から、風に誘われるように花びらがひらりと舞う。ゆるやかに幅を広げた川面には、そのいくつかが浮かび、屋形船の残した波紋に乗って、静かに流れていく。


紗季は、息をするのも忘れたように、その光景からしばらく目を離せずにいた。


水面に舞う桜と、光の粒をたたえた川の流れがゆっくりと溶け合い、彼女の前に広がる世界だけが、静かに切り取られていくように感じられた。


道ばたの店先から、声が投げかけられた。


「ほぉ、ええなぁ」


年配の店主が、にこにこしながら言う。


「今日はえらい華やかや思たら」


隣の店の主人も、うなずいた。


「ほんまに、よう似合うてはる」


「まるで春そのもんみたいやなぁ」


「ありがとうございます!」


雅が、ぱっと笑って頭を下げる。


紗季も、遅れて小さく会釈した。


「双子さんやね」


「どっちも綺麗なお嬢さんやわ」


結菜が、すかさず胸を張る。


「でしょ? 自慢なんです」


「そら自慢したなるわ」


店主たちは楽しそうに笑い、何度も頷いた。

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