第3章 崩壊への祭壇

1. 骨灯平原と白い鎖

 骨灯平原ボーンランタン・プレイン。その名の通り、戦死者の骨で作られた白い風車や灯籠が、どこまでも続く平原だ。風が吹くたび、カラカラと乾いた音が鳴る。それは死者たちの合唱のようでもあり、侵入者を拒む警告のようでもあった。


「……嫌な音だ」


 ピクスは耳を塞ぎながら歩いていた。ノマドに傷つけられた耳はまだ疼いている。だがそれ以上に、この乾いた音が、グラードの神経を逆撫でしないか気が気でなかった。

 グラードは無言だった。その瞳は虚ろで、焦点が合っていない。侵蝕段階・第四段階〈断層の静寂〉。彼の周囲の空間は、常にモザイクのように細かくひび割れている。近づくだけで肌が切れそうな、鋭利な静寂。彼はもう、ピクスの方を見ようともしなかった。


 その時。骨の風車の影から、白い鎧を纏った騎士たちが現れた。《白鎖団ホワイトチェイン》。表向きは「災厄者から民を守る聖騎士団」を名乗るが、その実態は「災厄者の周囲にいる弱者を狩り、災厄を孤立させる」ことを教義とする狂信的な粛清部隊だ。


「発見したぞ。あれが『静寂の王』……そして、その“餌”だ」


 小隊長である《鎖番ケイジキーパー》が、冷徹な目でピクスを指差した。彼らはグラードを見ない。見るのはピクスだけだ。


「災厄者は、守るべき弱者がいなくなれば、やがて自滅する。まずはあの小僧を殺せ。穢れた餌を絶て!」

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