17. 全部、黙れ

 混戦の中心で、グラードは立ち尽くしていた。苛立ちが、限界に達していた。

 ソルガの巻き戻しによる空間の歪み。ノマドの精神を逆撫でするノイズ。殻狩人たちの恐怖と殺意の波動。


 うるさい。うるさい、うるさい、うるさい。どいつもこいつも、俺の世界に勝手な音を流し込むな。


「……ヒヒッ! どうした静寂の旦那! その顔、随分と参ってるみたいじゃねえか!」


 ソルガが挑発し、時間をずらした死角からの斬撃を放つ。ノマドが不快な笑い声を脳内に響かせる。

 グラードの中で、何かが切れた。理性ではない。手綱だ。内側で暴れ狂う「反動の咆哮」を、外側の世界へ解き放つための栓を、自ら引き抜いた。


「──全部、黙れ」


 それは、言葉というよりは、爆発だった。


 ドォォォォォォォォンッ……!!


 音がしたわけではない。世界そのものが「停止」させられた衝撃だ。グラードを中心にして、黒いドーム状の静寂が爆発的に膨れ上がった。

 ソルガの「巻き戻し」が、強制的に停止させられる。時間が戻る前に、空間ごと固定されたのだ。ノマドの「ノイズ」が、物理的な圧力によって圧殺される。音の伝わる媒体である空気そのものが、コンクリートのように凝固したからだ。殻狩人たちは、悲鳴を上げる暇もなく、強化外骨格ごとペシャンコに潰れた。


「ガ、ハッ……!?」


 ソルガが血を吐いて吹き飛んだ。時間を戻そうとしても、戻るための「過去」が静寂に塗りつぶされて認識できない。

「馬鹿な……! 理屈が、通じねえ……!」


 ノマドもまた、両耳から血を流して膝をついた。

「あ、ああ……! 俺の音が、聞こえねぇ……!」


 相性? 関係ない。理屈? 知ったことか。圧倒的な質量暴力の前では、どんな搦め手も無意味だ。グラードは、ただ「うるさいから叩き潰した」。それだけだ。

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