6. 絶望の渡し《サロウ・フォード》
シェルターンを出て数日。二人が辿り着いたのは、濁った大河のほとりに立つ交易都市《サロウ・フォード》。別名、「絶望の渡し」。街の入り口には、見せしめのように数体の死体が吊るされている。この街の支配者《
「おい、そこのチビ。いい顔をしてるな」
関門を通ろうとした時、見張りの兵士がニヤつきながらピクスの腕を掴んだ。
「ロードへの献上品に丁度いい。奴隷枠で通してやるよ」
「えっ、や、やめ……グラードッ!」
ピクスは反射的に巨人の名を呼んだ。だが、グラードは立ち止まらない。ピクスが引きずられていくのを、まるで落とし物を見下ろすかのように無関心に眺めているだけだった。ピクスが絶望しかけた、その時。
「……通れないだろう」
グラードが呟いた。兵士がピクスを捕まえるために、道の真ん中に割り込んだこと。それがグラードの「前進」を阻害した。ただ、それだけが理由だった。
兵士が「あぁ?」と振り返った瞬間、その首が圧し折れた。触れてもいない。グラードから溢れ出した不可視の圧力が、物理的な衝撃波となって兵士を叩き潰したのだ。
騒ぎを聞きつけ、街の中からロード・フェリダムの私兵団が雪崩れ込んでくる。だが、それは火に油を注ぐ行為だった。
「邪魔だ」
グラードが足を踏み鳴らす。静寂の領域が爆発的に広がり、兵士たちだけでなく、街の城壁や監視塔までもがミシミシと悲鳴を上げ始めた。石造りの建物が、見えない巨人の手で握りつぶされたように歪み、崩落していく。
「ひ、ひぃッ! なんだあれは! 撃て、殺せェ!」
ロード・フェリダムがバルコニーから絶叫するが、その声も崩落音にかき消される。数分後。そこには、瓦礫の山と化した関門と、沈黙した街だけが残されていた。グラードはその瓦礫の上を、平然と歩いて渡っていく。
(俺のせいで……怒ったのか?)
ピクスは瓦礫に埋もれたロードの死体を見ながら、青ざめた顔で震えていた。違う。すぐに思い直す。この男は「ピクスが捕まったから」怒ったのではない。「自分の道が塞がれたから」街ごと粉砕したのだ。
(なんて……なんて人だ。でも)
ピクスは確信する。この男の周囲は、文字通り「台風の目」だ。外側は街が壊滅するほどの暴風雨だが、中心にいる自分だけは、なぜか無傷で立っていられる。ピクスは唾を飲み込み、再びその背中を追った。
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