7. 蒼き骸骨の強襲

 荒野を進む二人の前に、地響きとともに砂煙が上がった。現れたのは、蒼く染められた髑髏の仮面を被った騎馬部隊。悪名高い盗賊団《青骸骨団ブルースカルズ》だ。


「ヒャハハ! 見つけたぞ、『歩く災厄』のサンプルだ!」


 指揮を執るのは、自身の骨に遺物の破片を埋め込み、異形に膨れ上がった右腕を持つ狂人、《髑髏公スカルデューク》。元遺物研究者である彼は、グラードの肉体を希少な研究材料として狙っていた。


「総員、突撃! 四肢を切り落として回収しろ!」


 数十騎の騎馬が、槍を構えて突っ込んでくる。シェルターンのゴロツキとは違う、統率された軍隊のような突撃。ピクスは悲鳴を上げて岩陰に飛び込んだ。だが、グラードは戦斧をだらりと下げたまま動かない。


 騎馬隊が接触する直前、世界から音が消えた。


 ドォォォォォン! ……という音すらなく。先頭の馬たちが、まるで透明なプレス機に押し潰されたように、一瞬で地面に叩きつけられ、ひしゃげた。後続の馬がそれに突っ込み、団子状になって圧死していく。


「なッ……!? 馬鹿な、出力が計測不能だと!?」


 スカルデュークが叫ぶ。彼は咄嗟に自身の強化された骨を盾にし、直撃を避けたが、その右腕はひび割れ、愛馬は肉塊に変わっていた。


 グラードが、ゆっくりと近づいてくる。スカルデュークは、研究者ゆえに理解してしまった。これは「強い戦士」ではない。「理不尽な自然現象」だ。戦って勝てる相手ではない。


「く、くそッ! データが違いすぎる! 退却だ、総員散れッ!」


 スカルデュークは手下の死体を盾にして、這うようにして逃走した。グラードは逃げる者を追わない。彼のルールは「道を塞ぐ者を排除する」だけだからだ。


(……あいつ、ただの盗賊じゃない)


 岩陰からその様子を見ていたピクスは、冷静に観察していた。スカルデュークの逃げ足の速さ。そして「サンプル」「データ」という言葉。ただの略奪者ではない、もっと大きな背景を持った敵が、グラードを──ひいては自分たちを狙い始めている。


(グラードは気にしないだろうけど……俺が覚えておかないとヤバい)


 ピクスの中で、単なる「腰巾着」から「観測者」としての自覚が芽生え始めていた。

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