第4話 神器・雷槍は本物か?
3614年9月15日に栄故国の約1000年前に朝露城が建っていたとされる跡地の発掘作業が行われた。そこから出土されたのは1本の黒い槍だった。今となっては神器とも呼ばれる雷槍だと鑑定の専門家たちは診断した。
しかし、考古学者や歴史学者たちは雷槍がそこにあることに違和感を覚えた。
ーー神器雷槍がそこにあるはずがない、と。
彼らは知っていた。当時、雷槍の使い手とされた無名の異世界人が、ハマノコウヤ戦の間にその雷槍を失っていた事を。その異世界人がヒト科ヒト属ホモ・サピエンスと言う短命種で、戦の時に命を落としていると。何より、歴史的にハマノコウヤ戦が以前から城はあり、終わった後も資料的には数年間城は健在だった。そのため、跡地の地面から出土されるというのは、どうにもおかしい。
彼らは、当時、その周辺に生きていたドワーフに話を伺うことにした。ドワーフの名はベック。彼はだいぶ年老いており、記憶が曖昧で、明らかだと確認できたのは現存していた日記と彼が「雷槍は戦っていた戦場で投げ込まれた。」と言う言葉だけだった。
日記には、
2674年6月8日雨、荒野にて霞之との戦が再開され、雷槍が飛んできた。ハワードジュニアが俺たちを庇い槍に貫かれた。即死だった。明日は、もっと酷い事になるだろう。城が落ちるのも時間の問題だ。
2674年6月9日雨、俺たちはなんとか荒野から逃げ延びた。ハワードジュニアが殺された槍は昨日のうちに回収した。今頃あいつら血眼になって探してるはずだ。こんな物、水底にでも沈めてやろう。
2674年6月10日曇、話し合いの末、俺たちは戰場から離れ、高恐峰に登って雷槍を滝壺に落とすことに決めた。早速、高恐峰に登る。
2674年6月11日晴、仲間の一人ワンダーが高恐峰の断崖で、誤って雷槍を落としてしまった。同時に、酷い重低音と眩しい光が谷底へ勢いよく降りていった。深い谷だ。もう誰もあの雷槍を使うことはできないだろう。
と書かれていた。
この日記が仮に真実だとしたら、雷槍は高恐峰の谷底にあるはずだ。
考古学者たちは登山家のワットという名のエルフに連絡をとり、過去1000年の間に高恐峰の谷底で雷槍を見たものがいるか、もしくは雷槍を持ち帰ったものがいるかを調査することにした。結果は割と早くに判明した。
現地ーーつまり、谷底に住んでいた人々がいたのである。彼らは言い伝えとして、2670年頃に天から雷槍が激しい轟音と共に周囲の岩を焼き尽くし地面に落ちてきた。その槍は刃先は黒ずんでいたが、黒曜石のような黒さの長い柄が鋭く光っていた。その槍は谷底に住む人々の神殿に保管されている。
それを確認するため、考古学者のトオジ、歴史学者のテットが、鑑定員を連れて谷底の集落を訪れた。1000年前は高恐峰を登ったり、降りたりしながら険しい道を進むため、この集落に辿り着ける者はほとんど居なかった。しかし、今現在はトンネルが開通しており、比較的簡単に移動ができる。事前に登山家のワットから、谷底の人々へアポを取ってもらっており、神殿に入ると話はあっさりと進んだ。
鑑定員が神殿に大切に保管されていた雷槍を鑑定した。
神器の鑑定基準は、魔力がないあるいは少量の者でも発動でき、使い方だ正しければ必ず高威力の魔法が発動されるものである。また、神器そのものには破壊も腐敗もなく、耐用年数などもないことが知られている。そのため、基本的には実践で神器の判定を行うのが基本的ではあるが、外観などからもその痕跡は判別できる。
今回の鑑定は目視による鑑定と、魔法と化学によって判別する。トオジとテットが鑑定員の指示により機材を組み立て、その間に鑑定員は目視で神器の雷槍と判別し、識別色鑑定という魔法陣に入れたところ魔法陣は黄緑色に染まるーー判定は微妙なところではあったが偽物となった。最後に機材による判別によって雷槍は限りなく本物に近いものであると。
こうなっては、実際に雷槍を使ってみて、確かめてみようという話になった。神殿にいた人々は難色を示したが、最終的には同意した。
槍が落ちて来た日と同じ場所に、雷槍を扱える槍なげのスポーツ選手であるコトブキを呼び、使ってもらうことにした。魔力そのものは体力に比例して高くなるので、スポーツ選手である時点で高魔力を保有していることがわかっていたが、槍を投げるということができる人物がそう簡単に見つからなかったのである。
かくして、実験に立ち会うため映像記録係と地域住民、生き証人であるベック、トウジとテット、そして鑑定員と情報提供者であり実験をするなら立ち会いたいとワットが見学に来ていた。
コトブキが槍を掴み、肩口に構え、空へと高く投げ入れる。
瞬間的に曇天が渦を巻いて現れ、槍が雷と共に落下。激しい轟音と共に落下地点を抉るように破壊し、焦げ跡を残した。
「本物だ。」
誰かがそう声を溢した。
その瞬間、ベックの証言は歴史的にも正しかったこと、そして、彼らが最初に想定していた通り、ハマノコウヤ戦で失われていた神器・雷槍はこの谷に落ちていたことが確定した。
雷槍は、谷底の神殿の御神体として丁寧に祀られることとなった。
では、朝露城跡地から見つかった雷槍は偽物だったのか?
それは、そうではなかった。後に、その槍も同様に実験を行った結果、全く同じ効果を発揮したことが確認された。そのことから、神器は特別な一つしかないものではなく複数あるものだと、彼らは研究成果として発表された。
複数あるからといって、神器の特別性が薄れるわけではない。今の技術でも、神器の再現は不可能であり、その過去にある伝説めいた何かは、いまだに解明されていない。
誰が何の目的でどうやって作ったのか?
どういう経緯で地に埋まったのか?
それらの謎も彼らにとってはロマンに映っただろう。だからこそ、トオジやテットを中心に、考古学者も歴史学者たちもその興味を強めるだけだった。
ポップで気軽な短編集(異世界編) 佳芳 春花 @odgerel
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