第3話 舞台上の名探偵

 皇暦3793年5月1日のウェイアにある南アリーナにて、その日限定のイベントが幕を開けた。演者は7人。リーダーのナルス、副リーダーのガムル、参謀のピッサ、進行役のモーニー、ムードメーカーのハバー、バランサーのルイン、仕事人のアレンとなっている。

 いくつかの演目が終わり、中休みのようなトークタイムが開かれる。舞台袖からモーニーが座布団をピッサに渡し舞台の床に置いていく。ローテーブルをナルスとガルムが運び入れる中、ルインとアレンが舞台上で観客に向けた雑談をし、ハバーが舞台袖に引っ込む。

 ハバーが暗い舞台袖を見渡しながら、所定位置になかった演者の飲み物を探しながら「お茶って楽屋の冷蔵庫のままでしたっけ?」と問いかける。近くにいたスタッフが「舞台前に紫さんが持って来てましたよ。」と示された先のテーブルに全員分のお茶が置いてあり、それをとってハバーは再び舞台へと戻る。

「今日の来る時に来場者に向けて楽屋の写真を見せたと思うんですけど。わかりました?」

 ルインが観客に向けて問いかける。観客席からは「はーい。」と元気な声が返ってきた。

「あれバッチリだったよね。」とルインに向かってアレンが声をかける。

 笑い声が聞こえる中、ナルスもガムルも続々と座布団に座っていく。

 ハバーがお茶についたドリンクマーカーを確認しながらテーブルに並べる。

「赤はリーダー。青が僕で、水色がガルム。この緑は……アレン?」

「それ俺の。」

 ハバーがアレンの名を口にした時、訂正するようにピッサが声をあげた。ハバーからお茶を受け取り、ピッサはそれを一口飲んだ。

 同じ時にナルスもお茶を飲むと「うっ!」と声を出して、座布団の上に倒れる。

「えっ?」と声をあげたのはハバーだけだった。

 真っ先にナルスに近づいたのはガルムで、彼は棒読みで「死んでいます。」と告げる。床に倒れているナルスはその棒読みに肩を振るわせた。

「いや。嘘じゃん! 嘘が雑すぎるよ!」

「落ち着けハバー。君が殺したんだろ。」

 ピッサが淡々と口にする。

「待って待って! 落ち着いてるよ?! ナルス、生きてんじゃん!」

「ナルスは今ここで倒れてるよ。ハバー。」

「そうだね。でも、もし緊急事態なら、こんな話してないで警察呼ぼう? さっきっからスタッフさんも誰一人定位置から動いてないし。」

「あ。はい。メタ発言やめてください。」

 モーニーがピッサとハバーの間に立ち、仲裁をしながら話を続ける。

「はい。では、今から、ハバーは自分が犯人じゃないという証明をしないと次の演目に進めなくなりました。」

「待って、僕、何も聞いてない。」

「はい。ドッキリ企画です。」

「あーそこは告げちゃうんだ。」

「もう十分ドッキリにはかけたかなって。」

「そうだね。そう思うよ。でも、ここから何。僕が犯人じゃない証明をしないといけないんでしょ?」

「はい。いつも通り、進行は私、モーニーが担当します。」

「進行?」

「はい。あの、助手みたいなものと考えてください。」

「助手、助手か……。」

 ハバーは困惑しながら観客と周囲のメンバーを見渡す。どうやら知らされてなかったのは、ハバー一人だけだと気づく。

「え? 待って、観客の皆さん。皆さん、知ってたの?」

 観客はハバーの問いに頷いてみせる。

「え? どうやって? 僕、知らなかったんだけど?」

「それはいいから。あと、ハバー。これ時間制限あります。」

「え?! 時間制限あんの?!?!」

「はい。その間に、証拠を集めて、真犯人を見つけてください。」

「えっと、時間制限はいつまで?」

「このトークタイムが終わるまでですねぇ。」

 ハバーは「そーなんだー。」と頷きながら後退る。

「待って、その間に真犯人が見つからなかったらどうなるの?」

「ハバーの企画したコーナーあるじゃん? あれが潰れます。」

「えーっ! それは困る。みんなと話し合って作ったやつだよ?」

「そうですね。」

「この日のために練習とかしてたし、みんなもやりたくないの?」

 ハバーが舞台に立つ演者たちに向かって問いかける。しかし、誰も答えない。

「なんで、誰も何も言わないの。」

「そのためには、ハバーがハバー自身の無実を証明しないと。」

「えーでもどうすれば……?」

「まずは、みんなから話を聞いてみたら?」

「今の質問でさえも答えてくれてないよ?」

「一人一人に聞いてください。」

 ハバーは渋々といった様子で、ナルスに問いかける「犯人は誰ですか?」と。

「あの、ナルスはまだ死んでるんで。それ以外でお願いします。」

「じゃあ、ガルム。」

「俺が見たのは、ハバーが渡した飲み物をナルスが飲んだら倒れた。それだけだ。」

「わっわーすごい。話しかけたら聞いてないのに答えてくれた!」

「でも、この回答だとハバーが犯人でしかないと思いますよ?」

「ダメじゃん!」

 ハバーは次にピッサの方を向く。

「ピッサは?」

「ハバーが渡した飲み物でナルスが倒れた。」

「あーナルスと同じだ。何も進展しない。」

「他にもまだいるから。」

「じゃあ、モーニー?」

「あ。私は進行兼ヒント出しなので、対象外です。」

「なら次はルインで。」

「お茶を飲んだ後にナルスが倒れた。」

「さっきから同じなんだよなー。最後はアレン!」

「お茶を飲んだナルスが倒れた。」

「同じだなー。えー。どうするの?」

「もう一度聞いてみましょう。」

「同じじゃないの?」

 ハバーは渋々と今度はアレンから話を聞いていく。

「そう言えば、あのお茶、買って来たのは誰だったっけ?」

「セリフが変わった! え、じゃあ、次もアレン。」

「そう言えば、あのお茶、買って来たのは誰だったっけ?」

「あれ? さっきも聞いたな。」

「あの……多分、何度聞いても話が進まないと会話は変わりません。」

 ハバーがモーニーに振り返る。

「さっきの場面から次の場面にいつの間にか変わってたの? あ。全員に話を聞いたからか。」

「自分で納得した。」

「なら、まあ、じゃんじゃん聞いていくわ。次はルイン。」

「今日の入りはアレンと一緒だった。最初に着いたと思う。その後に来たのがナルスだったかな。」

「はいはいはい。なるほど。あれだ。パズルみたいなやつの、嘘つきを探すやつだ。」

「あの、別に、嘘つきはいません。」

「え?!」

「いたら、ハバーが見つけられないと思ったので。」

「じゃ、何? 敷かれたレール通りに進めば、正解に辿り着くの?」

「推理も必要。」

「推理もあるのかー……。」

 ハバーは照明の見える天を仰いだ。

「あ。ハバー。残り時間だいぶ少なくなって来てます。」

 イヤモニから指示が届いたのか、モーニーが耳を押さえながらハバーに告げる。

「やばいじゃん。じゃあ、ピッサ、ガルムの順で話を聞きます。」

「俺が楽屋入りした時には既にガルムがお茶を冷蔵庫に入れていたな。」

「前日にモーニーがナルスと揉めているのを見た。」

「え。待って。急になんか別の、前日の話が出て来たんだけど?!」

「そうですね。」

「もっかい話を聞いたら何か変わる?」

「かもしれないですね。聞きますか?」

「聞くよ。聞く聞く。ガルムー。」

「楽屋入りした順番を思い出してほしい。」

「え?」

「楽屋入りした順序を思い出してほしい。」

「楽屋入りの順? え? 僕が一番最後だったのは確か。で、さっきアレンとルインが最初に楽屋に入って、次がナルス……後は?」

 モーニーへ振り向くと「聞いてください。」と告げられる。

「でも、ガルムは同じ言葉しか話さないから、ピッサ?」

「俺が楽屋入りした時には既にガルムがお茶を冷蔵庫に入れていたな。」

「同じだ。同じ? あれ? だから、ナルスの次がモーニーかガルム? で、僕の前がピッサ。え?」

「そこまではあってます。」

「あってるのか。あってるんだよね?」

 何故か再び確認するハバーに、モーニーは「あってます。」とだけ答える。

「犯人はガルムかモーニー? え? 特定できなくない?」

「途中で言いました。誰も嘘はついていない。これがヒントです。」

「あ。ああ?」

「ガラが悪い。」

 モーニーは笑いながら呟く。

「えっと、だから、あれだ。モーニーとナルスが揉めてたから。そこで、動機があって、でもお茶を冷蔵庫に入れたのはガルムで。あ。いや、違うのか。モーニーが毒か何かを入れて、その後にガルムが冷蔵庫に入れた?」

「惜しい。」

「惜しい?」

「ハバーはどうやってお茶をここまで持ってきた?」

「え? 舞台袖に置いてあったのをスタッフさんから貰って。」

「その時、何か言われてませんか?」

「あ! あー! 紫! モーニー。君だったんだね!」

「すべて繋げてください。」

「だから、前日揉めたモーニーが、冷蔵庫から舞台袖に持ってくる時にナルスのお茶に毒を仕込んだ!」

「正解です!」

「やったー! 解いたぞー!」

 ハバーが声を上げると、観客が拍手を送る。

 ハバーたちの後ろでふらりとナルスが立ち上がり「遅いよ!」と声を上げた。

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